第七章 (2)
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「え…お、おいおい…」
運転席で涙ぐんでいるのは、まだ幼さがのこる新入社員だった。紺野さんは天を仰いで立ち尽くした。起き抜けで、よく回らない頭を無理にフル稼働させて考えをまとめる…この山奥で、「社用車が足りない」という建前で、車が一台残らず奪われた。そしてこの新入社員が独りで運転してきた軽ワゴン。いや、おそらく彼女は一人で来たわけじゃない。軽ワゴンに一緒に乗ってきた社員が、車を運転して走り去ったのだろう。
「…要するに俺達は、陸の孤島に幽閉されたんだな」
そして、この可哀想な新入社員は、説明係と称した「生贄」として、この場に置き去りにされたのだろう。脳内が、ため息で満たされた気がした。それを一気に鼻から吐き出す。
「…馬鹿野郎が」
「…すみません!あの、生活用品とかの買出しは、私が…」
八幡は涙をぬぐって、腹を決めたように紺野さんの視線を受け止めた。このまま殴り倒されても、この娘はそれを受け入れるのだろう。…そう、言い含められたのだろう。それを思うと、逆に泣きたくなってきた。
「…あいつらのことだ。事情はメールで流してるんだろ」
自分らの引き揚げ終了を見計らってな、と言いかけてやめた。自分の立場が捨て駒以外の何者でもないことは、八幡本人が痛いほどよく分かっているだろうから。
「…で、俺が怒り狂ってお前に手をあげる、もしくは暴言を吐くのを待っているわけか。最近じゃ、女に悪口を言っただけで、セクハラ裁判起こせるらしいからな。俺達の脛に傷を持たせれば、あとはあいつらの思いのままだ」
「そ、そんな!私、そんなつもりじゃ」
「…もういい。行けよ」
「え…でも」
「行け!これ以上、あいつらの思う壺にはまってたまるか!!」
走り去る軽ワゴンを呆然と見送りつつ、『結構カワイイ娘だったな…』などと性懲りもなく考えている自分の業の深さに呆れていると、騒々しい音を立てて宿舎のドアが開け放たれ、数人の部下が転びでて来た。
「こ、紺野さん!本部が超アホなメール寄越しよるで!」
「うわマジかよ、ないぞ!本当にない!!」
「畜生、遅かったか!」
「紺野さん、あの軽ワゴンの奴が!!」
「くっそ、追いかけろ!!」
気休め程度のマウンテンバイクを担ぎ出し、絶望的な距離まで遠のいたワゴンをぎゃあぎゃあ喚きながら追い始めた部下は、今起きていることの深刻さが分かっていないのだろう。
まぁ、俺もなんだかよく分かってないんだが。
――この計画、俺達にしわ寄せがくる方向で暴走し始めたみたいだな。
…一方的に話を聞くのも疲れたので、質問してみた。
「…会社って、そんなことしていいの」
「いいわけあるか。告発したら俺達の圧勝だ」
紺野さんは黒革の煙草入れを取り出すと、一本くわえて火をつけた。紫煙の向こうで鈍く光るドクロのジッポは、多分ガボールの
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