第七章 (2)
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紺野さんは、訥々と語り始めた。
紺野さんがコミュニケーション・セキュリティソフト「MOGMOG」の開発・商品化の案を経営会議の議題にあげたとき、経営陣は諸手をあげて受け入れた。
パソコン世代の嗜好にマッチし、さらに全く新しいセキュリティの方式。企業向けソフトの市場に伸び悩みを感じていた経営陣には、一般ユーザーの市場に強烈なインパクトで割り込めるこの企画は、まさに救世主のように感じられたという。当時の主力商品であった、企業用セキュリティ・パッケージソフト開発の裏で、MOGMOG開発は秘密裏に、しかし多大な予算を割かれて推し進められることになった。
その後間もなくMOGMOGのために特別に設立された、紺野さん率いる開発チームは、山奥の施設にて軟禁状態でひたすらMOGMOGの開発を進めることになった。それほど、徹底した機密として扱われたのだ。
「ここのチームに集められた連中は札付きでな。扱いにくいけど腕は立つから、仕方なく雇っている、といった感じの問題児の寄せ集めでよ。上層部の奴らも、体のいい厄介払いになったんだろう。一石二鳥ってやつでよ」
そういう紺野さんの表情は、どこか誇らしげだった。
「ていうことはもしかして、割と最近山から下りてきたばっかりなの」
「あぁ。お陰で髪は伸び放題」
「…それ、おしゃれで伸ばしてるんじゃなかったんだ」
「いいから!先をつづけるの!!」
ぴしゃりと話を遮られて、男二人は首をすくめて本題に戻った。
「ところが、こういった話にはよくあることなんだけどな……」
企業用セキュリティソフトの売れ行きに暗雲が立ち込めたことをきっかけに、MOGMOG開発計画は暴走を始めた。
競合他社が、品質を保ちながらの大幅なコストダウンに成功したのだ。長い付き合いの大企業は、コストよりもソフト総入れ替えのリスクを渋った結果、顧客として残ってくれたが、浮動票ともいえる中小企業のシェアは、どんどん競合他社のセキュリティソフトに吸収されていった。
売り上げは3割減少、株価は大暴落。この最悪の事態に頭を抱える上層部に、営業部が提案した打開策は、言葉にすると至ってシンプルだった。
「MOGMOGの販売を、半年早めて年末商戦を当て込みましょう」
…MOGMOG計画についての不吉な噂を耳にした数日後、突然、山奥の施設から、会社支給の買出し・移動用の乗用車が姿を消した。その代わりに、1台の軽ワゴンが、がら空きの駐車場に弧を描くように滑り込んだ。朝一番に異変に気がついた紺野さんが、ワゴンに駆け寄り運転手に詰め寄った。
「…何だこれは!どういう状況だ!!」
運転席から転び出てきた営業一課の女子新入社員・八幡志乃が、半泣き顔で頭を下げた。
「…ご、ごめんなさい…あの…営業で使う社用車が足りないから調達して来いって……」
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