暁 〜小説投稿サイト〜
くらいくらい電子の森に・・・
第七章 (1)
[4/8]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
が、自ら光を放つように、さらに白い光に包まれた。光は、自転車の細いフレームをいとも簡単に飲み込み、全てを白く染め上げた。……あとに残ったのは、僕と白い部屋。

耳元を涙が滑り落ちる感覚で、目を覚ました。
――見知らぬ天井、質のよさそうな布団。はっきりしない頭で考える。……ここは、どこだっけ……
柚木の部屋か?と希望的観測が頭をよぎったけれど、頭がはっきりするにつれ、その可能性は霧散した。枕元にドカ積みにされた、ネットワーク関連の書籍、その中に無造作に挟み込まれた『プレイボーイ』、脱ぎ散らかした服、発火寸前の超タコ足配線、灰皿に山積みで、これまた発火寸前の吸殻。家主の人格を如実に表すアイテムの数々。
「…紺野さん」
声に出してみたが、返事はない。何度か呼んでみたけど、返事はこない。柚木の姿も見当たらない。布団の端で雪崩を起こしている本を押しのけて体を起こす。全身に、びりっと痛みが走った。体中の筋肉という筋肉が、きしんで悲鳴をあげている。よろめいた拍子に、右肩が本の山を突き崩して新たな雪崩を引き起こした。
「…なんだここは。物置か」
「失敬な。俺の寝室だ」
本の山の向こう側から、紺野さんがのっそりと体を起こすのが見えた。
「…お前、いま絶対動くなよ」
「な、なんだよ、急に」
身じろぎした拍子に、左手のあたりに冷たいものがあふれた。
「ばっ……馬鹿野郎!動くなって言っただろうが!!」
「なっ何、これ何!?」
慌てて左手に触れたものを確認すると、冷たい水だった。どぷんどぷんどぷんと音をたてて、エビアンのペットボトルから溢れている。
「うわ、わわわわ」本の壁ごしに紺野さんが突き出したティッシュの箱をひったくり、エビアンのフタをきっちり閉めてからティッシュで布団を叩く。
「あーあぁもう…この季節、なかなか乾かないのに…」
「なんで枕元にエビアンが置いてあるんだよ!」
「水を飲ませろと医者に言われたからだ」
「医者!?」
「往診の医者だ。……覚えてないのか」

まだ、はっきりしない頭で、僕はぼんやりと昨日のことを思い出していた。息を切らせて紺野さんの車を追って、高そうなマンションにたどり着き、目の焦点が定まらないまま玄関に転げ込んでぶっ倒れた。それ以降の記憶が怪しい。……断片的に覚えているのは、朦朧とする意識の中、枕元に座る年配の医師。この部屋のとっ散らかり具合にしきりに文句を言いながら、『大事ない』という意味あいの言葉を、何度か言い方を変えてくりかえし、銀色の道具類をまとめると、ぷりぷり尻を振りながら出て行った。なんで尻を振るのだ、と朦朧としながらも不思議に思っていたけれど、意識がはっきりしている状態でこの部屋を見渡して謎が解けた。足の踏み場がないから、ぷりぷりせざるを得なかったのだ。

「…柚木ちゃんに聞いたぞ。自転車
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ