第七章 (1)
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に溶かしたような形の白い群れが、瘴気を囲い込んだ。それは少しずつ増えていって、球の形になった。それはあの子を押し込めるように包囲を縮めていく。よく見ると、機体(?)の翼がお互いの翼と、レゴブロックみたいに結合して、お互いの隙間を埋めている。手に負えない汚染箇所を隔離して、消滅させるつもりなんだと思う。
――きゅっと、胸が痛んだ。
あの子は囚われた。多分、消されちゃった。そう、ご主人さまに報告するために、教えられたアドレスに連絡しようとした瞬間
無数の機体が、バラバラに飛び散った。
「あっ……」
その瘴気はもう、目と鼻の先まで膨れ上がってて……グーグルのセキュリティさえ手に負えなかった瘴気が、私に!に、逃げないと……!!
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急いでニュースサイトの入り口を適当に叩く。でも駄目。他のセキュリティが働いて、この空間は閉ざされてしまった。…ログアウトしか方法はないけど、そしたらもう『あれ』を追跡できない。
――どうすれば、いいの?
瘴気が鼻先をかすめたそのとき、すごく強い、衝撃。電気的なものじゃなくて、物理的な。『強制終了』という文字が頭上にひらめいて、意識が遠くなっていく。…追わなきゃいけないのに、どうして………。
周りが血の色に染め上げられた瞬間、ぷつり、と意識が遠のいた。
僕は、夢を見ていた。
さっきバラバラに砕け散ったはずの自転車が、今朝磨き上げた直後の姿で、白い部屋に居た。置いてある、じゃなくて、居たんだ。
「なんとなく、綺麗にしたかったんだ。…柚木のことで浮かれてたのもあるけど、ただなんとなく」
がちゃり、かちゃん、と、自転車が音を立てた。夢の中では、それは自転車が操る一種の言語で、僕には理解できる。ありがとう、と言ったのだ。
「どこかで、予感してたのかもな。別れが、近いって」
ひんやりとしたフレームに触れると、『彼』はハンドルをもたげて、僕に絡みつくように傾いた。別れを惜しんでいるみたいに。
「…僕は、みんなの自転車を羨んでばっかりで、お前に酷いことばかり…」
彼は、体中をかちゃかちゃ言わせながら最後の話をした。
週に一度は油を差して、フレームを拭いてくれたことが、嬉しかった。
しょっちゅう施してくれる丁寧なメンテナンスが、仲間うちでも自慢だった。
――あの時、自分の力では逃げきれないと悟った。だから、その体を贄に、あのランドナーを呼び寄せたのだと。呪いのランドナーは、気に入った部員の自転車を屠る。でもこういうふうに、自転車がそれを望んで呼び寄せることも、たまにあるんだ。…と、変速機をがちゃがちゃいわせながら笑った。…せめて自分の飛び散った部品を、形見に使って欲しい。とも言ってくれた。
「意地でも探すよ。……ありがとう」
白い部屋
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