第35話
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「単によく会うだけだ。
俺があいつの事を知っている事と言えばそれくらいの事だけだ。」
「ですが、はっきりしないという所はやっぱり駄目ですね。
そういうところをはっきりしないから自分みたいな人間がいつまでもずるずると追いかける羽目になります。
こちらが本気でアタックしているのですから、あちらも本気で答えてほしいものですね。」
「恐くないのか?
あいつの口から「否」という答えを聞くのが。」
「恐いに決まっているじゃありませんか。
彼女の口から直接「否」と告げられたらこの心がどうなってしまうか、それは自分でも分からないぐらいですから。
けどね、やっぱり無理ですよ。
彼女が泣くと分かっていて、それでもなお彼女を奪おうと考えるだなんて。
彼女が幸せにならなければきっと何の意味もないんですから。」
海原の言葉を聞いて麻生は小さくため息を吐いた。
海原は美琴が言うほどの人ではなかった、これなら美琴がはっきりと「否」という答えを出しても海原は苦しい思いをするかもしれないがちゃんと受け入れるだろう。
麻生がそう考えていると横合いから足音が聞こえた。
麻生がそちらを見るとジュースのペットボトルを二つ抱えた美琴が立っていた。
何か驚いたような顔でこちらを見ている。
そしてズガズガ、とベンチに近づいてきて、顎を動かして「立て」とジャスチャ―で示した。
「ちょっとこっち来なさい、アンタ。」
麻生の返事を聞かずに麻生の腕を掴んで無理矢理立ち上がらせる。
美琴は海原の顔を見て、言う。
「ごめんなさい。
私、今日はこの人と外せない用事があるの。」
「あ、そうですか。」
「ええ、ごめんなさい。
それじゃあ。」
美琴は笑みを浮かべてそう言ったが、彼女の事を多少知っている麻生からすれば不自然で他人行儀な仕草だった。
海原もそれに気づいているのか食い下がろうとする気配はない。
麻生は美琴に引っ張られながらも海原をチラリと見る。
海原は「行ってあげてください」と笑って言った。
しばらく無言で歩いて裏路地のような所まで着くと、美琴はようやく立ちどまった。
彼女は勢い良く振り返ると、心底呆れたように言った。
「アンタねぇ!
私がアンタに演技なんか頼んだと思ってんのよ。
アンタが海原と仲良くなっちゃ何の意味もないでしょうが!
いい?アンタは今、私の・・・こ、「恋人役」なの。
それは付きまとってくる海原光貴を諦めさせるためのものなの!
それを「やめだ。」・・・え?」
「やめだ、と言ったんだ。
もうすぐ十二時になる。
これ以上付き合っていたら俺の知り合いの待ち合わせ時間に遅れてしまう。
それに・・・・」
麻生はしっかりと美琴の顔を見て言う
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