四十三 影と陰
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テマリを穴傍へ誘導する必要があった。
その伏線を即座に察したテマリが歯噛みするも、もう遅い。やたら緩慢な動きでこちらに歩いてくるシカマル同様、足が勝手に前へ進む。支配から逃れようと身を捩るが、クナイを握り締める手は確固として動かなかった。抗えぬ影の束縛。
不意に歩くのを止めたシカマルと同じく立ち止まるテマリ。正面で対峙する双方の動作は全く同じだ。しかしながら両者には決定的な違いがあった。
「ギブアップしてくれねえか?」
いきなり降参するよう勧めてくるシカマルをテマリは鼻で笑った。
「甘っちょろい奴だ。言うはずないだろう!?」
「言ってもらうさ」
えらく自信満々にそう言い切ってみせたシカマルが、自分の手を緩く握り締めた。
「人間ってのは不思議な生き物でな。追い詰められ、切羽詰まった時には判断力が鈍る。確実に仕留められる大物の武器より、自分に近い場所にある小物のクナイを選ぶ」
突然語り出したシカマルに、テマリを始め観客達は皆、訝しげな表情を浮かべた。怪訝な視線を一身に受けつつも、シカマルは話を続ける。
「その判断は正しいと思うぜ。戦闘は時間との勝負だからな。だが―――」
横目でちらりとテマリの手を見遣る。未だ握り締めるクナイが鈍い光を放った。
「今回はそれが仇となる」
そこでようやくテマリが気づいた。顔がサッと青褪める。無理矢理クナイから手を放そうとするが、クナイは頑なに彼女の手の内から離れようとしなかった。
試合開始直後テマリの攻撃をかわすため、シカマルは二本のクナイを壁に突き刺す事で難を逃れた。だが実はそれすらも伏線だったのである。テマリが出した口寄せ動物を操り、扇を遠くへ弾き飛ばす。己の得物を失った彼女がその二本のクナイを目にするようにする。クナイを手にしたのを確認し、次の一手であるパラシュートを用いる。クナイを握らせたまま穴まで誘導し、身体の支配権を奪う。
そして今現在、何も武器を持っていないシカマルとクナイを握るテマリ。傍目からは武器を所持するテマリのほうが有利に見えるが、実際は逆である。さながらクナイを持っているように手を緩く握りながら、シカマルは目を細めた。
「扇じゃ首は切れないが…クナイはどうだろうな?」
やけに淡々と、それも物静かに問う。テマリの手が震え、クナイがカタカタと音を立てた。
その光景を、固唾を呑んで見守る観客達。その中で試合を観戦していた山中いのは内心首を傾げた。隣の席にいるチョウジに囁く。
「シカマルの奴、今回やけに影を操る時間が長くない?いつもならとっくにチャクラ切れになってるじゃない」
「なんか、影を持続させる修行をしたみたいだよ」
「へ!?あのシカマルが〜?」
一番面倒臭がる修行をあのシカマルが?と再度聞き返して、いのは対戦場に目線を戻した。
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