不器用な言葉
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けられた重圧は、まるで飛竜にでも睨まれたかのような感覚で、我ながらよくも逃げ出さなかったものだと感心するくらいだった。
あの一瞬で、彼女の首は身体と別れていたかもしれないのだ。それは明確な恐怖として朱美を苛んでいた。
「……人狼か。ま、問題を起こすような奴じゃあなさそうだね。だが……」
一度ヴォルフの隣を歩く神無の背を見る。ヴォルフに視線を向ければ恐らく気付かれるので、意識しての行為だ。
「人斬りだってのは、間違いなさそうだ」
そう呟いてから物陰から出た朱美は、集会場のほうへと歩いて行った。
ユクモ村には農場がある。
ここは村の農民が作物を育てる為の田畑があるだけじゃなく、ハンター達が狩りに使う道具となる物を栽培する所でもある。
現に、畑にいるのは鍬を持つ農家の人間だけではなく、戦闘服を着たハンターが自身の植えた薬草などの栽培結果などの確認、更にはアイルーが主の変わりに田畑を耕し岩場を掘って鉱石などを探している。
また、農場は河川に面しており網に掛かった魚を引き上げる場面もあった。
この魚は食料となるばかりか、骨や鱗が弾丸や爆薬の部品に使えるなど、用途が多いものが多く獲れる。
そんな中で、作務衣姿で頭に手拭いを巻いた小野寺正太郎は、ぼんやりと空を眺めていた。
いつもなら村の入り口に立って門番を務めているのだが、今の彼にはそれを行う気力が無かった。それは――――――
「門番の仕事はどうした?」
見下ろすように立った金髪の男ヴォルフ・ストラディスタに昨日、完敗したからである。
「なっ! てめぇ!?」
正太郎は飛び起きてヴォルフと距離を取る。
彼はは顔を引き攣らせてヴォルフを……正確には腰に差された刀を見ている。
背中に手を伸ばすが、肝心の太刀が存在しないことに愕然とする。当然だ。太刀は昨日、切られたばかりなのだから。
「安心しろ。お前を斬る気は無い」
当の本人は腕を組んでつまらなそうに言う。
「じゃあ、何しに来やがった? 見下しにでも来たのかよ?」
「そんな暇も理由も無い」
溜息混じりに告げるヴォルフに掴みかかりそうになる正太郎だったが、ヴォルフの後ろには神無がいた。心配そうに様子を伺っているのが分かる。
「じゃあ何だよ? 何しに来たんだよ?」
「為すべき事を為せ。そう言いに来た」
正太郎はヴォルフの言葉に目を見開いた。だが、目を逸らして舌打ちする。
「辞めだ。門番なんざ、廃業だよ」
「何故だ?」
「ああ!? 決まってんだろ! お前に負けちまったからに決まってんだろうが! 負けちまった門番に何の意味も無ぇ!」
正太郎は激昂し、感情に任せて怒鳴り散らした。その剣幕に神無だけではなく、農場にいた全ての人間が驚いている。
「……本当にそう思って
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