暁 〜小説投稿サイト〜
人狼と雷狼竜
不器用な言葉
[4/8]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話

「そうそう。キミに訊きたかったんだけどさ?」
 言葉と共に朱美の気配が鋭くなる。この女……この針の先を目の前に突きつけられるような感覚……小銃使いの狙撃手か。
「正太郎の奴に何してくれたんだい?」
 朱美は完全に殺気立っている。その雰囲気に神無は戸惑いを隠せないようだ。
 正太郎……ああ、あの門番か。
「勝負を挑まれたから受けて立った。それだけだ」
 俺の言葉を聞いた朱美はあからさまに顔を顰めた。
「どんな負かし方したら、あんなに落ち込むんだい?」
「どのように落ち込んでいるかは見当もつかんが、身の程を思い知らせただけだ」
「へえ? じゃあ君自身は身の程を知っているのかな?」
「ああ。少なくとも奴よりは」
「見せてみなよ?」
 そう言いつつ、朱美の右手がゆっくりと肩に水平になるように持ち上げられ、俺はその動きを封じる。
 朱美の背中に掛けられた小銃を掴もうとする手を、抜き放った刀を手首に添える事で止める。
「っ!?」
「ヴォル君!?」
「左手がナイフを握っているのも見抜いている。アンタも身の程が分かったか?」
 神無が声を上げるがこの際だから無視する。余計な事に巻き込んだのは申し訳ないが、この女には理屈よりも身体で理解させるほうが手っ取り早い。
「……成程。アイツじゃキミの足元にも及ばないな」
 朱美は悔しそうだったが事の次第を理解したようだった。肝を冷やしたらしく、大きく息を吐いている。神無も隣でホッと息を吐いている。
「とんでもない速さと正確さだ。一体いつ抜いたのか見当も付かないよ」
 そう言いつつ両手を下ろして負けを認める。
 潔いな。どこぞの誰かとは大違いだ。
「それはそうとして、アイツを何とかしてくれないか?」
「何故俺が?」
 唐突に出てきた言葉に思わず疑問が出てくる。
「アイツを打ち負かしたのはキミ」
「そうだ」
「ならアイツを立ち直らせるのもキミ」
「何故?」
 意味が分からない。
「そりゃ男同士だし。自分を打ち負かした相手に手を差し伸べられるってのは屈辱だろうけど、それを切っ掛けに復活するかもだ」
 ……滅茶苦茶な理由だな。それともコイツは負けた腹いせに面倒ごとを押し付けたいのか?
「そんな訳で任せたよ」
「待て、勝手に決めるな」
「悪いね、これから出発するんだ。結構遠出になるからね。アタシにはあの馬鹿に構ってる余裕は無いんだ。じゃ、頼んだよ」
 言うや否や走り去って行った。やれやれ、どうやらやるしかないようだな。
「ヴォル君?」
「仕方ない。奴に会いに行くとしよう」





 団子屋で勘定を済ませて去るヴォルフと神無を、建物の影から朱美は観察していた。
 身体は小刻みに震え、全身が冷や汗でベタベタになっている。先程ヴォルフに刃を向けられた時に向
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ