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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第一話 天狼会戦
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き怪しげな記憶すらも警鐘を鳴らしている、そうした記憶を利用して生きてきた身である馬堂豊久大尉は、それを無視できる筈もない。
 さて、困ったものだ、嫌な予感は産まれてからこのかた26年外した事がない――
そう考えて馬堂大尉は溜息をついた。

 馬堂豊久は――前世、〈大協約〉世界ではなく、所謂“地球”で過ごした前世の記憶を持っているのである。座学で優秀な成績を維持できた一因であるが、価値観の擦り合わせに苦悩したりと相応に苦労をしている。
「この会戦の結果は最悪であると想定した方が良いだろうな。」
 ぼそりと独り言ちる、幸い今、彼の言葉を聞いているのは口許に銜えた細巻から立ち上る紫煙だけで士気云々の面倒は気にしないでいられる。
 この予想が外れる事を祈りながら彼は大隊本部へ戻る為に歩き出した。
 少なくとも気を紛らわせる仕事はあるのだから。


同日 午前第九刻 天狼原野 北領鎮台主力より後方一里
独立捜索剣虎兵第十一大隊 第二中隊中隊兵站幕僚 新城直衛中尉 


「勝つとも!まともにやれば数が上回る我が方が絶対有利だ!!」
 第二中隊長がぶつぶつと爪を噛みながらつぶやいている姿を横目に兵站幕僚である新城直衛はうんざりした気持ちで眺めていた。

 ――全くもって将校が兵の前の振る舞うべき態度ではない、兵の不安を煽る行動をするくらいなら黙っていて欲しいものだ。 それに実戦経験豊富な帝国、それも東方辺境軍が多勢相手に若菜の言うまともな戦をするとは到底思えない。確かに、戦いは数と言うのは真理だ、だが三万と対二万二千、この程度なら十分勝ち目はある。そう考えると手慰みに書いていた現在の布陣図に線を加えた。

 ――数は上回っていても経験不足の軍隊を相手どって勝利を得ようとするのなら相手を混乱させれば容易い。現在鎮台主力隊は未だ隊列の変換中、あの戦慣れした軍隊ならば――いや過大評価であると思いたいものだ。

 どの道どうにもならない事を考えている虚しさに気づき、新城は立ち上がると自身の描いた図を見て自嘲の笑みを浮かべた。

 ――線が震えている、手が震えているのだ。 情けない、まったくもって何時も通りだ、馬鹿らしい。

 その時、前方から怒号と地響きそして万にも届く銃声が響きだした。


同日 午前第十刻 天狼原野主戦場より後方一里
独立捜索剣虎兵第十一大隊本部 大隊情報幕僚 馬堂豊久


 馬堂大尉は舌打ちをして望遠鏡を下ろした。
舞い上がる硝煙越しでも最悪の戦況が見て取れる。

「――酷いな、あれではとても無理だ。」

 銃兵達の戦列は一刻保てば奇跡だろう、〈帝国〉軍は軍事の教本通りに隊型を組もうとしている最中の北領鎮台主力部隊に対して猟兵隊を行軍用の縦列のままで強襲したのだ。
 このままでは銃
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