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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
序 動乱の兆し
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形である騎兵、軍隊の主要な兵科である彼らは馬がなければ話にならない。
つまりはひどく面倒な連中として上からは扱われるのだ。
 第二の他兵科とは隔絶した戦闘法がそうした考えをさらに煽る形になってしまっている。
彼らの戦い方は戦列を組み、戦う現行の諸兵科に対して、あまりに異質であった。
その為に周囲からは懐疑的な目で見られ、索的・白兵戦能力の高さから匪賊討伐に高い成果を上げているが、運用の困難さから幾つか独立大隊が編制されただけに留まっている。
 この独立捜索剣虎兵第十一大隊もそうした部隊の一つである。

「駄目だ、補充の目処を何とかしてたてるからそれまで待て」
 兵站幕僚がひらひらと片手をふって却下する。

「それ、前も聞きましたよ。捜索剣虎兵中隊の機動力が何時まで経っても向上しないのは困ります。今は匪賊相手ですから砲がなくても問題ありませんが、万一の時に火力を喪失したら致命的な事態に陥る可能性がありますよ。」

「そんな事は中隊の連中からも言われているんだ、分かっているさ。
俺だって頭が痛い問題なのだからそうせっつかないでくれ」
 今度は砲術屋へと立場を変えて兵站幕僚に突っかかった馬堂大尉を見て呆れたように笑いながら戦務幕僚は情報幕僚の作成した匪賊の行動経路とその予想図に目を通す。つまりはいつも通りの光景であった――ここまでは。
 その時、鎮台司令部に出ていた大隊長の伊藤が執務室に戻ってきた。
「おい、貴様ら。」
 顔面を蒼白くしている様子からただ事ではないと見て取った幕僚達も顔を強ばらせた。
 普段の無気力な風采と打って変わり、搾り出すような口調で彼らの何もかもが変わってゆく事を告げる。
「――鎮台司令部に導術通報があった。奥津湾に〈帝国〉軍の艦船が侵攻せり、とな」

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