第4章 聖痕
第38話 邪神顕現
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異界を、跳ね除ける事の出来ない脆弱な意志しか持ち得ない人間達を次々と喰らい尽くして行く邪炎。
一人の太った男が俺の方に、何かを訴えかけるように自らの両手を差し伸べて来る。しかし、その両手が既に炎を発し、更に、大きく見開いたその瞳と口からは、赤い炎が、まるで彼自身の体液の如くあふれ出していた。
既に炎と化し、倒れ伏した元人間を伝って炎が広がり、人の油が燃える悪臭が鼻をつく。
そして、次の瞬間。既に人としての限界を迎えていたその身体が、音もなく砕け散る。
焼け焦げた何かと、元々、生命の源で有った赤き液体を、煮沸した何かに変えながら……。
濃密な呪が燃える熱き大気に、喘ぐように息を吐き出し……。
床を蹴り、俺の方に右手を伸ばすタバサの右手を掴み、生来の能力解放。そのまま一気に天井付近まで高度を取る。
刹那。終に、世界の歪みが頂点に達した。
そして最早、広がり切った陰火により、生ける者の存在しなくなったカジノの床に……。
――――――――次元孔が開いた。
それは、異界より訪れし招かれざる客人。
凄まじいばかりの瘴気の塊。
「タバサ、瞬間移動するぞ!」
天井付近に滞空していた俺とタバサを目指して、その凄まじいばかりの瘴気の渦が、大体直径一メートルほどの大きさの陰火の塊を自らから切り離し……。
俺達に向けて放った。
瞬間、繊手が閃き、その淡き色合いのくちびるが古の知識を紡ぐ。
刹那、俺と彼女の周囲に現れしは、冷気の防壁。
そして、邪炎と冷気の一瞬の攻防。
しかし、呆気ないほどの短い時間で無効化されて仕舞う冷気陣。
何故ならば、元より神格が違う。未だ完全に実体化していないとは言え、相手は小なりと雖も邪神。
片や、タバサが発生させた仙術は、水の乙女の発生させる対火焔用の結界術。いくら、水克火とは言っても限度が有る。
この状態を火侮水の状態と呼ぶ。火の勢いが強すぎて、水が火を剋する事が出来ない状態。
しかし、この一瞬は、生死を分ける一瞬。
そう。邪炎が到達する一瞬前に完成した瞬間移動用の術式が効果を発揮し、辛くも虎口を脱する俺とタバサ。
そして、一瞬のタイムラグの後、小高い丘の上に有る女子修道院の上空に転移を果たす俺とタバサ。
刹那、世界が変わった。
通常の初夏の夜で有ったはずの世界が、地下より這い出して来た何者かにより、異世界の夜へと変貌する。
陥没するかのように崩れる地盤。そして、その陥没に巻き込まれるように崩壊する荘厳な中世ゴシック建築風の寺院。
濛々と舞い上がる土煙。
その土煙が、上空百メートル程の位置を滞空し続ける俺とタバサの元まで到達し、しばしの間、その視界を奪う。
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