第4章 聖痕
第38話 邪神顕現
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そう。しかし、それは、笑い声ではなかった。
心の軋み。人ではない何かが、人の振りをして上げた笑い声に似た何か。
そして……。
「我が大神よ、我らが魂を贄にっ!」
それまでの落ち着いた……冷静な人物の仮面をかなぐり捨て、その笑い声に相応しい狂気に彩られた叫び声を上げる暗殺者エリック。その一瞬後。それまでの、西欧人の少年に現れる、儚いと表現すべきその華奢な身体が倍以上に膨れ上がり……。
そして、突如、紅い炎の柱と化した。
刹那、世界がほんの少し歪む。
一瞬、何が起きたのか判らず、静寂に包まれるカジノ内。
そして、次の瞬間、爆発する感情。悲鳴、怒号、そして、意味の無い絶叫。
恐慌に陥ったカジノの客達が、その不気味なまでの紅い炎から少しでも遠ざかろうと、カジノの唯一の入り口付近に殺到する。
倒れた人間を踏み付け、背骨を砕き、赤き液体で自らの両の脚を染め上げながらも、尚も、出口へと進もうとする者たち。
いや、その時、既に彼らは異界からの侵食を受けていた。何故ならば、既に、彼らの口と瞳からは赤き血潮が流れ、吐き出す吐息は灼熱の気を帯び、喘ぐように開かれる口の奥には、チロチロと燃える……。
「我が大神よ、我らが魂を贄にっ!」
その瞬間、世界の秩序が歪み、更に異界からの侵食が進む。
刹那。同じようにカジノの従業員たち。……おそらく、そのすべてが暗殺者集団に属する構成員たちも、そう叫ぶと同時に炎に包まれて行く。
そして、徐々に大きくなって行く世界の歪み。
人間が燃える異常な悪臭に、胃から逆流して来る苦い何かを無理矢理呑み込んだ。
いや、これは違う。悪臭だけではなく、陰火が発する邪気が周囲を包みつつ有ったのだ。
そう。人間を次々と炎の柱へと変えて行きながら、周囲の雰囲気は神聖なる炎が支配する空間としては、あるまじき雰囲気へと変わって来たのだ。
「タバサ。気をしっかり持って置け。これは、ヤバい!」
そう叫びながら、彼女の方に駆け寄る俺。
異界より押し寄せる戦慄にややその身を強張らせながらも、俺の言葉に反応するタバサ。
そう。現在の彼女は女性用の正装。白きイブニングドレス、更に夜会用の靴では、流石にこれから先の戦闘に対処するのは難しく成る可能性も有る。
もし、現状が異界化現象の始まりで有るのなら、これから先には……。
世界の歪みが更に広がる。
そして、次々と炎の柱が広がって行く。
最初は確かに、人体発火現象が起きていたのは暗殺集団の構成員だけだった。しかし、今では無関係なカジノの客までが炎と変わっていたのだ。
これは、間違いなく意志の弱い存在が、魔界の邪気に呑み込まれている状態。
浸食して来る
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