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万華鏡
第十六話 プールと海その十四
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れを聞いて呆れた。
「最後の最後で」
「そうでしょ。それで最後のピッチャーは」
「江夏さん中日で使ってるから」
 別のピッチャーだ。その彼は。
「上田さんって人でね」
「その人だったの」
「その人が投げたけれど」
 だがそれでもだというのだ。
「この人は中日に強かったのよ」
「前の試合の相手に」
「そう、それで江夏さんはね」
「巨人に強いわよね」
 このことは琴乃も聞いて知っていた。江夏豊といえば巨人キラーだった、阪神のエースとして巨人をねじ伏せていたことで人気を得ていたのだ。
「そうよね」
「采配ミスよね、どう見ても」
「うん」
 どう考えても投げる順番は逆だった。
「そうよね。それでなの」
「負けたのよ。最後の最後で」
「よりによって巨人に」
「それで暴動になったのよ」
「暴動?」
「そう、球場の中でね」
 阪神ファンが怒り狂った結果である。
「よりによってその球場が甲子園だったから」
「何でそう悪い条件が揃うのよ」
 琴乃はこのことにも呆れた。
「そこまで」
「凄過ぎるでしょ」
「最後の最後で巨人相手にしかも采配ミスが重なって」
「そう、甲子園でね」
「九対零で負けて」
「目の前で巨人に優勝されたのよ」
 こちらが優勝出来ると思っていたのにだ。
「凄い流れでしょ」
「最悪ね」
「こうしたこともあったからね」
「阪神って色々あるのね」
「大丈夫とか思ったら駄目よ」
 それも決してだというのだ。
「阪神に限ってはね」
「じゃあ日曜の試合も」
「安心しないの」
 そうして観なければならないというのだ。
「絶対にね。いいわね」
「わかったわ。それにしても阪神を応援するのって」
「修羅の道よ」
 母の言葉は厳しい。
「例え何があっても嘆き悲しまないことよ」
「けれど応援してると楽しいのよね」
 阪神を応援することはだというのだ。琴乃にしても阪神が応援することは止められないのだ、そうした話をしてだった。
 虎柄にした照る照る坊主を吊るした。そのうえで日曜日晴れることを心から願った、梅雨のある日のことである。


第十六話   完


                   2012・11・24
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