第十六話 プールと海その十三
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「けれど打線が」
「いつも肝心なところで打たなくてね」
「一点や二点だから」
相手は二点や三点だ。つまりは。
「一点差負けばかりで」
「それが阪神なのよ」
「一点取られたら負け?」
「基本はね」
「ううん、だから今一つ勝てないのね」
琴乃は項垂れてしまった。そうなったのは雨とはまた別の理由だから厄介なのである。
「助っ人とか新人でいいのが出たら」
「本当にいいけれどね」
「誰かいないのかしら。三割三十本百打点の助っ人が」
「またえらく凄いの言うわね」
「それも二人」
しかもそれは一人ではなかった。
「三番と四番でね」
「それだけいれば優勝出来るから」
ピッチャーが抑えてくれる、それならというのだ。
「誰かいないかしら」
「ちょっと難しいわね」
「友達、美優ちゃんだけれどね」
「あの娘ね」
母も既に彼女のことは知っている、他のクラウンのメンバーのこともだ。
「あの娘も阪神ファンだったのね」
「お兄さんもそうだけれど。美優ちゃんはミスタータイガースとバースさん入れたらしいのよ」
「いいセンスしてるわね。初代よね」
「そう、背番号十番ね」
その永久欠番である。それだけの選手だからこそのことだ。
「その人とバースさん入れたけれど」
「だったら優勝出来るでしょ」
「そう言ってるわ」
「野球はやっぱりピッチャーとね」
「打線もなのね」
「全てにおいてバランスがよくないと駄目なの」
母はピッチャー第一主義者ではなかった。阪神を見ていれば如何に打線が大事かわかるからである、身を以て知ったことなのだ。
「守備もだし」
「エラーもしないことなの」
「守備範囲と肩もよ」
エラーだけでなくそうした本来の守備も大事だというのだ。
「とにかく総合力なのよ」
「阪神はどうしても」
「ピッチャーだけじゃ駄目なの」
何についてもこれに尽きた。
「とにかくね」
「そうよね。それじゃあ日曜の試合は」
「わからないわね。最近特に打たないし」
そうなっていることだった。やはり阪神だ。
「心配よね」
「打ってくれたらいいけれど」
「もう照る照る坊主に色塗りなさい」
「黒と黄色よね」
琴乃はこれまでの話からその色をすぐに察した。
「その二色よね」
「柄はわかるわね」
「ええ、虎ね」
「そう、虎よ」
まさにそれだというのだ。
「黒とオレンジにしたら駄目よ」
「誰もそんな不吉な配色しないから」
憎むべきあの巨人の嫌らしい配色である。この配色こそは悪魔の配色でありこの世を悪に染め上げるものである。科学的な根拠はないが間違いなくそうである。
「私もね」
「じゃあいいわね」
「ええ。絵の具は」
「ポスターカラーの方がいいわよ」
母は娘にすぐに言った。
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