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レンズ越しのセイレーン
Report
Report2 ヒュプノス
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た。

「いいよ。バランがしたいなら、手、出しても」

 バランは面食らって言葉が出なかった。
 ……しばらくして、彼はユティの上からどいて深い深いため息をついた。ユティは起き上がって不安げに首を傾げる。

「あのね。男のロマンは恥じらう乙女に迫ることなの。現実には『イヤよイヤよも好きの内』なんて求めたらセクハラ扱いされるって分かってても男は夢を捨てらんないの。そうでなくても程よくイヤがってくんないと燃えないの。分かる?」
「……ごめんなさい。次から気をつけます」
「あと相手は選ぶこと。女の子なら特にね。今日の教えは彼氏ができるまで封印しときなさい」
「はい」
「よろしい。んじゃ、もっかい寝ていーよ」

 許可を出すなりユティはベッドに倒れた。今のは明らかに受身を取っていない音だったが、本人はウトウトし始めているので平気なのだろう。

「そんなに眠い?」
「ねむ、い」
「ルドガーんちに下宿してんだろ? 気を遣って眠れないのか?」
「ちょっと、違う。警戒してる、から、浅くしか、寝てないの」
「ルドガーに襲われないかって?」
「違う。ルドガーが襲われないか」

 クランスピア社のエージェントならなまじの敵は撃退できると思うが。


「バランのそばが一番よく眠れる」


 もう一度聞こうとした時には遅かった。少女はすでに眠りの世界に帰ってしまっていた。



 ――従弟の連れという時点でただ者ではないと察したが、深くは問わなかった。従弟にも、異国からはるばる渡り来た新人研究員にも。
 どうせ1年前みたく世界規模のでかい案件を背負っているに決まっている。あいにくとバランはそこまで重い荷物は負いたくない。
 言われれば手は貸してやるが、どいつもこいつも言いやしない。

(たすけて――って言えない大人になるのが、一番めんどいってのに)

 その点、ユースティアは分かりやすい。彼女がバランに求めるのは快適な睡眠環境、それだけだ。
 不眠症らしきことは今まで話す中で気づいていた。理由を問うたのは今日が初めてだったというだけで。

(この分だとアルフレドも一枚噛んでんだろーなー。何でみんなして望んで苦労をしょい込むんだかねえ)

 もっともバランも人のことは言えた義理はないが。何せ研究に研究を重ねても失敗続きの源霊匣(オリジン)の開発責任者などしているのだから。

 バランは眠る少女の下からブランケットを引っ張り出し、上からかけてやってから、デスクに座った。

「――おやすみ。陰の努力家さん」

 さて、とバランは伸びをしてデスクに資料を広げた。国を憂う一研究者として、自分もあと少し頑張ろう。
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