本編番外編
とある兄弟シリーズ
とある兄の独白
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『大した事じゃない。子供で怪我人である以上、お前達が誰であろうと助けるつもりだった』
そう素っ気なく告げ、奴は脇目も振らずにこの場から立ち去っていった。
ピンと張られた背筋と自分の方を見て煩わし気に細められた黒い瞳を思い出して、歯がみをする。
幼くもうちはの次期頭領の候補として、誰もが無視出来ないだけの力を持っていたと内心で自負していた。
なのにその自尊や驕り――そう“驕り”は、不意に現れた奴によって粉々にされた。
「兄さん、大丈夫?」
「ああ。――イズナ、お前こそ怪我の具合は……?」
「平気、だよ。見て、もう傷跡さえ残っていない」
怪我していた弟の片足に問題は無い様だ。
その事実に一安心して、同時に胸の奥から今まで感じた事の無い屈辱と怒りとが沸き起こる。
悔しくて、何よりもまず腹立たしい。
誰もが看過出来ないだけの力を身に付けていたと自負していたにも拘らず、奴相手では手も足も出なかった――いや、出す事さえ叶わなかったのだ。
任務の最中で疲れていたとか、追っ手だと勘違いしていたとか、言い訳は幾つでも上げられよう。
――だが、結局の所それらは全て言い訳でしかない。
気付けば地面へと放り飛ばされ、極上の笑みを浮かべながらもどこか呆れた様子を隠さない相手の面を呆然と眺めるしかなかったのは事実なのだから。
「眼中に……入ってもいなかったな」
「――兄さん?」
手際良く奴によって気絶させられた敵方の忍びを縛り上げながら、イズナが訝し気な声を上げる。
普段であればすぐに応対したと言うのに、今回ばかりはそんな気も起こらなかった。
最初から最後まで、奴が見ていたのはイズナ――つまり怪我人だけだった。
礼を告げた自分の写輪眼を見て驚きこそしていたものの、だからといって態度が変わる事も無くかった。
始祖の因縁のせいで対立し合っている、千手とうちは。千手内でそれなりの身分をもっていそうな奴がそれを知らないと言う事は無いだろう。
なのに、こちらを見つめていた目にはそう言った負の感情など一切浮かべていなかった。
――森の千手一族唯一の、木遁使い。
最近巷で囁かれる様になって来た忍びだ。
他の誰もが扱えない唯一無二の圧倒的な木遁忍術を持ちながら、争いを好まない異色の忍者だと己も聞いていた。
正直、争いを厭う様な相手に興味は無かった――だが、それが奴だと言うのなら話は別だった。
「……随分とオレも舐められたものだな」
……今度会う時は、二度と無視など出来ない様にしてやろうではないか。
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