雷を纏いし森の王者
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わ言を呟き続ける神無に再び呼び掛けるが反応は無く、ヴォルフへ視線を移した。
ジンオウガとヴォルフの睨み合いは続いている。一触即発という言葉が実に相応しい光景だった。
「出来た」
声を聞いた梓はヴォルフとジンオウガから視線を外して椿の方を向く。
地面には紙で出来た筒状の物が空を向くように向けられて置かれ、椿の手には火の点いた線香が握られている。
「やりなさい!」
梓の言葉に頷いた椿はコクリと頷くと、持っていた線香を筒の根元から伸びた糸のような物に当てる。
火が点けられた糸状のそれは、火花を上げながら徐々に短くなっていく。これは発火の前の時間猶予を齎すための導火線だ。そして導火線が繋がれた筒状の物は……
椿が梓に近付き二人で神無を支えながら、筒から距離をとる。
数秒後に導火線は燃え尽きて火花が筒の中に入り込み、筒の中から炎の玉が空へ向かって打ち出された。
森の木々よりも高く飛んだそれは、腹に響くようなくぐもった音と共に破裂し、赤紫の大輪を空に咲かせた。花火だ。
増援を呼ぶ為の合図だ。決して観賞用のものではない。
だが、それは対峙していた一人と一頭を激突させる合図となってしまった。
空で救援信号が弾けるが、それを切っ掛けにジンオウガが突進してきた。
この状況下で花火型救援信号など、奴を刺激するだけだという事が分からんのか。素人め、引っ掻き回してくれる……
ジンオウガが突進しその発達した逞しい右の前足を持ち上げる。
速い。あの時よりも速度が増している!
俺は咄嗟に右に跳んで躱すのがやっとだった。凄まじい破砕音が周囲に響き渡ると共に、大地が揺れて直撃地点の地面が砂塵や砕けた土と石を宙へと舞い上げた。
その威力に背筋が寒くなる。ナルガクルガの尾の一撃でも比較にならない。アレを仮に防げたとしても……無理だな。楯が壊れなくても人間が楯に潰されてしまう!
砂塵が張った煙幕の向こうには稲光が音を立てて走っている。次の瞬間に地面を叩く音と共に、煙幕を切り裂いて光る玉のような物が複数飛来してくる。
「くっ!?」
ナルガクルガの放った棘のような直線的な動きではない。不規則に動き回る正体の見えない物だ。数が多くて見切れない。
俺は咄嗟に明らかな範囲外とも言うべき地面に伏せて回避を試みた。
通り過ぎる際に羽音が聞こえた。アレは雷光虫か!? 輝きも重圧もまるで別物だ!
直後にジンオウガが動いた。再び前足で叩き潰そうと飛び掛ってくる。
地面を転がって回避するが、上を向いた時にはジンオウガの足の裏らしい太いが鋭く、それでありながら逞しい爪が剥き出しになったそれが眼前に迫ってきていた。二撃目だ!
俺は全身を独楽のように回転させながら跳んで回避を試みた。
「ぐぁっ
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