雷を纏いし森の王者
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その雄大な姿を見たヴォルフは、この地を訪れる際の事を思い出していた。
勘が告げる。このジンオウガはあの時に遭遇したものと同じ個体だ。まだ一日と経っていないというのに、こうしてまた巡り会う事になるとは誰が想像し得ただろうか。
全身から放電現象を起こし稲光を纏っているジンオウガが、その碧い瞳をヴォルフに向ける。刀を鞘に収めたヴォルフもまた、その碧い瞳をジンオウガに向けていた。
互いの視線が交差する中、ヴォルフもジンオウガも互いに静止したまま動かなかった。
「ジン……オウガ」
「本当に、霊峰から降りてきたというの!?」
「初めて見た」
梓の言葉は尤もだった。
ジンオウガという種は、霊峰と呼ばれるユクモのある山の頂上とその付近に生息する。
そこは人間が住むには無理があるほど険しく、そのあまりの険しさはモンスター達も近付こうとしない場所だ。
ジンオウガは稀に狩りの為に霊峰から降りてくることがあるが、それでも人間が居る所までは降りてこないのが常だった。
例え遭遇したとしても、ジンオウガから人間に牙を剥くことは無い。
それはジンオウガが人肉を好まない事を理由にしていることもあるが、ジンオウガとはその強壮な姿に似つかわしくない程、争いを好まないのだ。
『威嚇して接近を拒む』
『人間が攻撃、または狩りの邪魔をしない以上相手にすらしない』
『縄張りを荒らした場合は襲い掛かってくるが、それでも縄張りから出れば追ってこない』
というのがジンオウガという種だ。
だが、今のジンオウガは縄張りである霊峰を降り、ユクモ付近の山中を縄張りと定め更には勢力を拡大しつつある。
それが今のユクモに訪れている異常事態だ。
人里にまでは現れないだろうが、トラブルに巻き込んで刺激してしまえばどうなるか……それが正に今だとしたら。
「あ……ああ」
「神無?」
椿が神無の搾り出すような声に気付いた。
神無は両手で頭を守りながらジンオウガを凝視していた。だが、その目はジンオウガを映しては居ない。その目は焦点が合っていなかった。
「神無!?」
「どうしたの!?」
梓も異常に気付いて神無を揺さぶるが、神無は変わらない。しゃがみこんで頭を振るだけだった。
「やだ……やだよぅ」
「神無! しっかりして!」
「ヴォル君が……また、またどっかに行っちゃうよっ!」
「え!?」
「また?」
錯乱した神無の言葉に、二人は尚も神無に呼びかけるが神無の様子は変わらない。
「椿」
「……うん」
梓は埒が明かないと踏んで梓に声を掛け、椿は彼女の言わんとしている事を理解したのか頷いて立ち上がる。
腰の後ろに固定してある鞄から、幾つもの道具を取り出して地面に置いて並べていく。
神無を腕に抱えた梓は、う
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