『彼』とおまえとおれと
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「巫哉。あたし、犀が好きかもしれない」
ピンク色のかわいらしいベットの上に日紅はクッションを抱えて両足を折り曲げて座っていた。
今日、帰ってきてから、日紅はまた窓を開けなかった。
『彼』は窓の外でやきもきしていた。『彼』は時の流れに縛られない。形あるものにも、この世の条理にも縛られない。こんな窓など越えて日紅の前に姿を現すのは簡単だし、日紅が学校にいる時のように日紅に悟られないよう寄り添うこともできる。
でも、『彼』はそのどれもしなかった。日紅の様子を透視することもせずただ窓の外で日紅を待った。なぜか、『彼』にとって日紅が自らの意思でこの窓を開けてくれなければ、そうしなければいけないような気がしたのだ。
そして、望み通り窓は開いた。夜半のことだ。
部屋の電気は消されていた。これも、いつものことだ。『彼』と日紅と犀が三人で密会するときは夜半。電気がついていると両親や姉に怪しまれるからだ。だから、いつもは小さいスタンドライトをつけていた。
今日、そのスタンドライトはついていなかった。
「なんだよ、こんな夜遅くに起こすなよ」
いつもどおり軽口をたたきながら『彼』は窓枠に手をかけて部屋に入った。
部屋が真っ暗なのは『彼』にはどうでもいいことだ。夜目が効くとかいう問題ではなく、『彼』には見ようとすればそこにあるものがなんでも見えたから。
「巫哉」
そう言われて日紅を見た。
『彼』は、その瞬間、その身が凍ったように感じた。
日紅の目。
なにかー…なにか、違う?
日紅の瞳は静かだった。日紅の口が開く。『彼』は確かに恐怖を感じた。やめろ、言うな!それは直感だった。
クッションを抱えたまま日紅はぽつりと言った。
「巫哉、あたし犀が好きかもしれない」
「………………………………………」
『彼』は日紅の言葉を胸の内で反芻した。
日紅が、犀を、好き。
それは別に普通のことだろう。好きでなければ夜半にわざわざ自らの家に招いて人外のものと一緒に遊ぶなんて酔狂な真似をするはずがない。
けれど、日紅が言った「すき」には違う意味があるのだろう。でなければ、今更「かも」なんて曖昧な言葉は使うまい。
「そうか」
『彼』は早口でそう言った。自分が今どのような顔をしているのか想像するのを恐ろしいと思
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