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機動6課副部隊長の憂鬱な日々
第102話:エリーゼ・シュミット、退院す
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、俺の頬をつねり上げる力は
弱くなるどころかむしろ強くなる。
痛さで涙が出てくるに至って、姉ちゃんはようやく手を離したのだが、
その顔には、満足げな笑みが浮かんでいた。

「お姉ちゃんをバカにしたら許さないんだからね」

「・・・はいはい」

俺はバカバカしくて反駁する気力もなく、適当に相槌を打った。
そのとき、母さんが俺と姉ちゃんの間に割り込んでくる。

「エリーゼ。ゲオルグにはたくさん世話になったんだし、
 あんたも大人なんだから、そういうのはいい加減控えなさい」

「お母さん? だって、ゲオルグが・・・」

姉ちゃんは母さんに反論しようとするのだが、母さんに見据えられて
語尾が小さくなっていく。
やがて、姉ちゃんは肩を落として、母さんに向かって頭を下げた。

「・・・はい」

「よろしい」

母さんが満足げに頷くと、父さんが口を開いた。

「じゃあ、そろそろ行こうか」

父さんの言葉に全員が頷き、母さんが姉ちゃんの車いすを押そうとする。
が、俺はその手を遮った。

「母さん。俺が押すよ」

「そう? じゃあ、お願いね」

母さんは微笑を浮かべて小さく頷くと、姉ちゃんの荷物を持って、先に
病室を出ようとしている父さんの後に続いた。
俺も、姉ちゃんの車いすを押してそのあとに続く。
車いすの上で、姉ちゃんは相変わらずうなだれていたが、
ふと顔を上げると、前を向いたまま小声で俺に話しかけてきた。

「ごめんね、ゲオルグ」

「いいって。あんまり気にすんなよ」

俺がそう答えると、姉ちゃんは俺の方を振り返り、目を丸くしていた。

「昔はよく喧嘩になったのに、あんたもおとなしくなったのね」

「そうか?」

俺が尋ねると、姉ちゃんは大きく首を縦に振る。

「うん。なんだかゲオルグが年上の人みたい」

「まあ、眠ってた時期を差っ引けば、精神年齢は俺の方が年上だしね」

俺がそう言うと、姉ちゃんは不満げに唇を尖らせる。

「なんか、悔しいんだけど・・・」

姉ちゃんの様子を見て、俺は思わず苦笑してしまう。

「負けず嫌いなのも相変わらずなのな」

「ほっといてよ!」

姉ちゃんは少し語気を強めてそういうと、前を向いてしまった。
俺は小さく肩をすくめて、無言で車いすを押していく。

「ゲオルグ」

エレベータホールを前に、姉ちゃんが急に声をかけてきたので
俺は少しびっくりしてしまう。

「なんだよ、姉ちゃん」

「私、今でもあんたのお姉ちゃんだよね?」

弱々しい声でそう言う姉ちゃんの気持ちが少し判った気がした。

「当り前だろ。姉ちゃんはいつまでたっても俺の姉ちゃんだよ」

「ありがと、ゲオルグ」


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