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故郷は青き星
第十三話
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的なものであり、素早く半日程度で体外に排出されるが、繰り返しの使用は神経組織にダメージを残す可能性が高いと判断されて導入を見送られた。
 だがイルヌ星系陥落により見直しが入るのは確実なはず。ならば先に使ってみせると心に決めた。
『了解しました。製造を開始します』
 エルシャンは、マザーブレインの言葉に満足そうに頷く。
 もう自分の身体などどうでもいい。戦ってフルントの名をこの宇宙に刻み込む。敵にも味方にも誰にも決して忘れる事が出来ないようにこの手で刻み込む。それしか自分には残されていない。
 そう自分を追い込むことしか彼には出来ない。どんなに生きるべき理由を並べても彼は本心では死にたいのだった。死んで楽になりたい。家族の元に行きたい。自分にもう死んでも良いよと言えるような状況を作りたいだけ、だが彼はまだそう言える気持ちにはなれそうもなかった。


 クラト星系に到着したエルシャンは方面軍本部に出頭したエルシャンへ、直属の上司に当たるガッパー少将より新たな情報が伝えられる。
 フルント人名門氏族が保有する53個基幹艦隊と、フルント政府所属の12個基幹艦隊が『フルント人唯一の生き残り』であるエルシャンが権利が移動したと言う事実だった。

 フルント星のみならず、フルント星の衛星ベリールトにあるコロニー群。第2惑星シヤルンおよび第4惑星カルーネへの【敵性体】による侵略は伝えられていたが、ドルッグ星系・カルオン星系への侵略は無いというのが先日の報告だった。両星系の3ヵ所に観測施設があり、それぞれ100人程度のフルント人研究者が生き残っているはずだった。
「全観測施設との連絡が途絶した。先日、最後の通信では全職員が自決を……」
 フルント人は群れに属する習性を持つ。今回は本能ともいえるその習性が最悪の方向に結びついた。また観測施設に居た研究者は全て単身赴任で家族をイルヌ星系に残していた事も大きく作用していた。
 フルント人にとって家族は群れ以上に意味のある集団であり、群れも家族も失った彼等は絶望し自らの死を選んでしまった。
「現在、生存が確認されているフルント人は残念ながら君だけだ」
「そうですか、それは羨ましいことです」
「何だって?」
 笑いながら答えるエルシャンにガッパー少将は怒りをにじませる。
「死んで楽になる。ただのフルント人には許される幸せです」
「准将?」
「ですが小官はトリマ家の男です。最後まで戦って死ぬまで生きてあがき続けます」
 顔色を真っ青にしながら、そう言い切るエルシャンを前に少将にはかける言葉が見つからなかった。
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