第九十六話
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第九十六話 笛の音
二匹が変化したのは。それはマイクであった。二つのマイクが宙に浮かんでいる。
「マイクですか」
小百合先生はそのマイクを見て声をあげる。
「また変わったものに変身しましたね。いえ」
だがここで。先生もあることに気付いたようだった。おっとりとしてにこにことした顔はそのままだったが納得したものもそこに見せて後は見守るのだった。
「じゃあ。行くわよ」
美奈子はフルートを構えて吹く。その音色は二匹のマイクの助けも受けケルベロスの耳にも入る。すると。ケルベロスは忽ちのうちに動きを止めたのだった。
「御主人様」
「どうやら狙い通りですね」
「ええ」
マイクになったままの二匹の言葉に頷く。笛を吹きながら。
「どうやらね。じゃあ後は」
「どうされますか?」
「このまま吹くわ」
そう答えてさらに笛を吹く。
「こうしていけばケルベロスは眠って。それで消える筈よ」
「そうですね」
「この曲で」
「ブラームスの子守唄」
それをフルートで奏でているのだ。音楽を得意とする美奈子らしかった。伊達に天才とまで言われているわけではなかった。
「これで駄目なら。もうおしまいだけれどね」
笛を吹き続けると次第にケルベロスは横たわりそうして眠りに入り。そのまま寝てしまい最後には消えたのだった。
美奈子と五人はケルベロスに勝った。これで五匹目、後は最後の一匹だけとなったのだった。美奈子は満足した笑みを浮かべて皆に語っていた。
「オルフェウスなのよ」
「ギリシア神話ね」
「ええ。あれだとオルフェウスは竪琴の音色でケルベロスを眠らせたのよ」
「そうだったね」
ケルベロスはただ恐ろしい外見を持っているだけではないのだ。実はその知性も高く音楽を愛しているのだ。実に意外なことであるが。
「だからね。それを使ったのよ」
「そういうことだったの」
「凄い自信があると思ったら」
「音楽だったらね」
美奈子は毅然として皆に述べた。
「あるわ。だから何とかなったのよ」
「それでも何とかなのね」
「そうなの。タミーノとフィガロにも助けられたし」
元の姿に戻っている二匹を見て述べる。
「本当に。何とかだったわ」
「何とかでも勝ちは勝ちよ」
華奈子は笑って双子の姉に対して言った。
「違うかしら」
「そう考えればいいかしら。じゃあ華奈子」
美奈子は双子の妹の言葉を聞いて微笑みながらその彼女に言葉を返すのだった。
「何?」
「ラスト、頼むわね」
「わかってるわ」
華奈子もにこりと笑って応える。何はともあれ最後の勝負になるのだった。
第九十六話 完
2008・3・8
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