第八十九話
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第八十九話 本当にしてみた
そのクローンの話が嘘ならばどれだけよかったか。しかしそうはならなかった。
「さてさて」
「さてさてって博士」
その得体の知れない不細工なおっさんが街に溢れ返っていた。
「もう作ったんですか?」
「わしは仕事が早いのじゃ」
何と一時間で千人のクローンを作ったのであった。しかもその小柄で太っていてパーマをしていてシークレットブーツと灰色の変な服を着ていてサングラスをしているお世辞にも格好いいとは言えないおっさんをであった。
「どうじゃ、出来映えは」
「性格はどんなのですか?」
「当然オリジナルのままじゃ」
なお悪かった。
「安心していいぞ。わしは完璧主義者じゃからな」
「完璧ってこれが」
「だから見ておるのじゃ」
まだ言うのであった。
「このおっさんが街に出たらな」
「皆普通に怖がりますよ」
「はっはっは、それだけではないぞ」
とてつもなく嫌なことにそれだけではなかったのであった。
「それだけではな」
「って何があるんですか」
「だから。性格はそのままなのじゃ」
ここが重要であった。嫌になることであるが。
「わかるな、それは」
「ということは」
小田切君もこのおっさんの性格は知っているつもりだ。女好きで尊大で利己的な独裁者だ。実際に会ったことはないがそれで有名である。
「街に出したら」
「ほれ、見よ」
早速問題を起こしまくっている。何でも勘でも尊大でやりた放題である。
「ゴッキローチより悪質なんじゃ?」
「それはいいことじゃな」
それをいいことと言うのが博士なのだ。
「むっ、しかし」
「どうしました?」
「そうじゃった。こいつは独裁者だった」
今更言うまでもないことである。言うまでもないことだが博士はそれをうっかりと忘れていたのである。というよりはだからこそ災厄を起こすと考えていたのであるが。
「さて、どういったことになるかの」
「何か大変なことになるのは確信できます」
これは言うまでもないことであった。
「まだヒトラーやスターリンの方がましじゃないんですか?」
「そうかの」
その辺りの判断は極めて難しいところだ。
「とりあえず最後はろくなことになりませんよ」
「結構結構」
マッドサイエンティストにとってはそれが最も望ましいことである。
「どうなっていくかのう」
やはり天本博士は天本博士であった。最悪の結末を想定して悦に耽るのであった。
第八十九話 完
2008・2・27
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