第五百三十七話
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第五百三十七話 目指すものは
春奈も走っている、だが運動はあまり得意ではない彼女の順位はあまりよくはない、だがそれでも必死の顔で走り続ける。
その彼女の脳裏に美樹が言ってきた。
「大丈夫?」
「うん」
春奈は微笑んだ声で美樹に答えた。
「安心して。最後までね」
「走られるのね」
「いけるわ」
立ち止まらず走りながらの言葉だった。
「絶対にね」
「わかったわ。それじゃあね」
美樹も春奈のその言葉に応えて言う。
「頑張ってね」
「美樹ちゃんもよね」
「うん、最後まで頑張るから」
美樹なりに苦しそうな声だ、だがそれでもだった。
「完走するからね」
「頑張ってね、美樹ちゃんも」
「うん、六人揃って完走しよう」
最後まで完走するのは二人だけではなかった。
「皆でね」
「そうよね。クラウンは六人のグループだから」
「六人で完走しないと意味がないから」
それでだというのだ。
「完走目指して頑張ろう」
「そういうことね。ただね」
「ただって?」
「これまでは完走できないって思ってたの、今年はね」
「五年になって距離が伸びるからよね」
「ええ、それでなの」
四年と五年では距離が違う、五年つまり高学年になるとその走る距離はかなり増えるのだ、だから春奈も完走する自信はなかった。
だが今はどうか、そのことを美樹に話す。
「けれど今は」
「いける?」
「やってみるわ」
こう言うのだった。
「最後の最後までね」
「距離が伸びても成長してるから、私達も」
これは身体的な意味だけではない。
「自信を持っていこうね」
「そういうことね。自信を持ってね」
「行こう」
「うん」
春奈は美樹の言葉に頷く。そしてだった。
一歩ずつ走っていく、何度も立ち止まりそうになるがその都度だった。
その立ち止まりたくなる気持ちを抑えて走り続ける、そうして。
まだ遥か先にあるゴールを目指すのだった。それはまだ見えないがそれでも確実に近付いていた、一歩ずつにしても。
第五百三十七話 完
2012・12・5
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