第五十話
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第五十話 観覧車で
小田切君と先生は観覧車で話をすることになった。二人は中に入ると向かい合って座った。先生の清楚な服装が小田切君の目にも入る。
「よくお似合いですね」
まずは服を褒めるのであった。
「有り難うございます」
「僕なんかいつもこれですからね」
ここで苦笑いを浮かべて自分の白衣を差し示すのであった。
「何か無愛想で」
「いえ、よくお似合いですよ」
「そうでしょうか」
何かお世辞に聞こえて仕方がなかった。
「あまりそうは」
「いえ、本当に」
先生のその笑みはお世辞とは思わせないものがあった。天性の笑みであった。
「よくお似合いです」
「だといいですけれど」
そこまで聞いて何とか納得する小田切君であった。それでも話を続ける。
「それでですね」
「はい」
「ここに僕をお招きした理由は」
「さて」
ところがその返事は実に天然ものであった。先生らしいと言えばそれまでだが。
「何でしたっけ」
「あの、何もなしですか?」
これには小田切君もその目を丸くさせた。
「ひょっとして」
「ええ、忘れてしまいました」
ということらしい。
「申し訳ありませんが」
「そうですか。はあ」
「それでもですね」
それでも話をする先生であった。やはり只者ではない。
「気になることがありまして」
「気になることですか」
「どうして今のお仕事を」
何気にかなり重要な話であった。おっとりしているが見ているところは見ている、小田切君は心の中でそう思った。もっとも他には実はタイプだと思ったりもしているがこれは内緒である。結構顔と目に出てしまっているが本人は気付いてはいない。
「今のですか」
「はい、どういった成り行きで」
「お給料がよかったからです」
実はそれだけだったのだ。
「待遇もよかったですし」
「それだけですか」
「ええ、まあ」
素直に答える。そもそもあんな異常な人間がいるとは誰も考えはしない。
「それだけだったんで」
「そうですか。楽しいですよね」
何故か楽しいことを認めさせる問いであった。
「どうでしょうか」
「!?」
先生の質問に妙なものを感じだした。
だがそれははじまりに過ぎなかった。これからが本番であったのだ。
第五十話 完
2007・10・3
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