第四百八十九話
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第四百八十九話 色目にしてみても
タロもライゾウもだ。今はだ。
色がわかる様に目に魔力を込めている。だが、だった。
今日子先生が何処にいるのかわからない。それでライゾウが言った。
「人が多過ぎるからか?ちょっとな」
「何処にいるかわからないね」
「ああ、何処にいるんだろうな」
タロに応えながら下を見て言うのだった。
「本当に一体な」
「そうだね。ちょっとね」
「わからないな。観客席にいる筈なのにな」
「ロイヤルボックスでしょうか」
「そこでしょうか」
タミーノとフィガロはそのロイヤルボックスを見ていた。所謂奥座敷とも言われる席で歌劇場の常連、当然資産のある者達がそこに入る。
そのロイヤルボックスを見るがだ。そこにもだった。
今日子先生の姿は見えない。それでタミーノもフィガロも言った。
「おかしいですね。これは」
「何処にもおられません」
「ううん、そんな筈ないけれど」
「匂いは微かにするぜ」
今日子先生の匂いは今ライゾウが感じた。そして匂いとなるとだ。
犬のタロがだ。こう他の三匹に述べたのだった。
「間違いなくここにいるけれど。ただ」
「ただ?」
「ただといいますと」
「妙だね。匂いが動いてるよ」
「風に乗っているのですか」
「この歌劇場の中を」
「演奏によって出る風と」
風もだ。タロは感じ取っていた。無論他の三匹も。
「後は歌からの風が海流みたいになってるね」
「海流ですか」
「そうしたものになっていますか」
「うん。それも複雑に絡み合ってるね」
匂いもだ。それによってだというのだ。
「これが歌劇場なんだ」
「歌劇場は音楽や歌が常にあります」
「オーケストラ、一人か何人かの歌、そして合唱がです」
歌劇場に響きそれと共に風を作ってだ。そしてだというのだ。
「歌劇場を常に動き回っていますので」
「それに乗って匂いもまた」
「そうですね。私達も鼻を使っています」
「そうしています」
狐、そして狸も犬科の生き物だ。それならばだった。
鼻はかなりいい。それで彼等も嗅いでいる。だが、だった。
どうしても今日子先生の匂いは感じない。それでだった。
彼等は首を捻りだ。こう言うのだった。
「まさか気付かれたのでしょうか」
「私達のことが」
こう考えたのだった。あまりにも見つからないので。
第四百八十九話 完
2012・5・8
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