第三百三十二話
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第三百三十二話 美奈子の努力
美奈子はフルートを得意としている。それでだ。
この日も家に帰るとすぐにフルートの練習をはじめた。そこでだ。タミーノとフィガロは主である彼女に対して言ってきたのだった。
「美奈子様、思いますに」
「ここはです」
「何かあるのかしら」
美奈子はフルートを止めて二匹に問い返した。
「フルートのことね」
「はい」
「その通りです」
まさにそれだというのである。
「ここはもう少しです」
「穏やかにされるべきかと」
「穏やかに、なのね」
「近頃の美奈子様の音楽は少しです」
「速くなっています」
彼等は美奈子のフルートをじっくりと聴いていた。そのうえでの言葉だけに確かな説得力があった。そして美奈子はどうかというとだ。
落ち着いた顔で二匹の言葉を聞いてだ。こう言うのであった。
「わかったわ」
「それではですね」
「すぐに」
「訂正するわ。穏やかにね」
「はい、そうです」
「穏やかにです」
「少しでいいわね」
美奈子はその穏やかの度合いについても尋ねた。
「具体的には」
「心もち穏やかにです」
「その位です」
「心もちね。わかったわ」
また頷く美奈子だった。そしてである。
彼女はまた吹いてみた。意識して少しだけ穏やかに吹いてみた。一曲終わってからそのうえでだった。タミーノとフィガロに対して尋ねた。
「これでどうかしら」
「かなりよくなってます」
「しかしです」
聴いてからまた言う彼等だった。
「僅かですがまだ速いです」
「完璧ではありません」
「完璧を目指し過ぎたら機械になってしまうけれど」
それは避けたい美奈子だった。彼女は人間の音楽を考えているのだ。決して機械の音楽を目指しているのではない。問題はそこだった。
「それでもここはね」
「穏やかをですね」
「目指されますか」
「ええ、そうするわ」
こう言ってだった。また吹く美奈子だった。
しかしまた速いと言われた。それならばとまた吹きそれを繰り返していく。彼女はこうして日々自分の音楽を磨いているのである。
第三百三十二話 完
2010・11・5
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