第三百四話
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第三百四話 小田切君達のお茶
「お茶美味いな」
「そうだね」
ライゾウ兄とタロ弟がだ。それぞれ博士の研究所の中の一室においてお茶を飲んでいた。その前足を手のようにして使って飲んでいる。
「麦茶っていいよな」
「身体にもいいしね」
「夏はやっぱりね」
小田切君もいた。彼もまた麦茶を飲んでいる。その麦茶はガラスのコップに入れられていて実によく冷えた印象を与えるものであった。
「麦茶だよね」
「だよなあ。そういえばこの前冷えた抹茶あったよな」
「ああ、あれだよね」
ライゾウ兄とタロ弟はその冷やした抹茶の話もした。
「グリーンティーな」
「あれもよかったよね」
「抹茶も冷やして飲むことができるからね」
小田切君は二匹のその話に合わせた。
「だからあれもね」
「あれも美味かったからな」
「甘かったしね」
「お砂糖を入れてね」
そうして飲んだというのである。それを聞けば抹茶にしても紅茶等と大して変わらないと言える。お茶はお茶だということである。
「そうして飲んだしね」
「けれど麦茶はこのままでいいよな」
「ストレートでね」
「まあお砂糖を入れることもできるけれど」
小田切君と彼等の話は続く。
「けれどそれでもね」
「ああ、ストレートが一番だよ」
「麦茶は何も入れないのがね」
「そうだね。何かドイツ人に言わせると」
小田切君は不意に彼等のことを話に出してきた。それは少し聞いただけでは全く関係のない話だった。しかしそれは違っていた。
「麦茶って代用コーヒーに味が似ているらしいね」
「へえ、じゃあ代用コーヒーって美味いのか?」
「そうかな」
「けれどドイツ人はまずいって言うね」
旧東ドイツの人達はである。彼等にとってはあまりいい思い出の味ではない。もっともその味はもう完全に過去のものとなろうとしてはいる。
「その代用コーヒーがね」
「じゃあドイツ人は麦茶をまずいっていうのか?」
「こんなに美味しいのに」
「味覚はそれぞれだからね」
小田切君はこのことにはこう言うに留めた。ドイツ人の味覚についてはあえて言わないようにしたのである。これは彼の気遣いである。
「だからね」
「まあおいら達は麦茶を楽しむか」
「そうしよう」
彼等は西瓜も一緒に食べていた。夏の納涼を充分に満喫していた。
第三百四話 完
2010・7・27
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