第二百七十一話
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第二百七十一話 嫌いな本
とにかく本を次々に読破していく博士。この中でふと言うのだった。
「ううむ」
「どうしたんですか?」
「この作品はのう」
見ればある小説を手に取りながら難しい顔をしていた。
「好かんな」
「お嫌いですか」
「そうじゃ。好かん」
こう言うのである。
「こうした作品はじゃ」
「何読んでるんですか?それで」
「プロレタリア文学じゃ」
それだというのである。見れば確かにそうした感じのタイトルが表紙に書かれている。本自体は結構薄い感じの本である。それを読みながらの言葉だった。
「こういうのは好かんのじゃ」
「まあ博士だったらそうでしょうね」
「わかるか」
「共産主義とかナチズムとかお嫌いですよね」
「マルクスはわしを非科学的だと言ってくれた」
こうむっとした顔で語るのだった。
「見事なまでにじゃ」
「マルクス本人に御会いしたんですか?」
「ロンドン博物館の図書館で会ったのじゃよ」
そこだというのである。マルクスはイギリスに亡命しそのロンドンで日々図書館に通い学んでいた。そのうえで共産主義思想を形成していったのだ。
「その時にじゃ。面と向かって言われたのじゃ」
「マルクスともお知り合いだったのですか」
そのことにそもそも驚く小田切君だった。
「それはまた」
「だからわしは二百億歳じゃ」
博士の年齢は地球より古い。
「マルクスなんぞほんのひよっこじゃ」
「というか現実の会話に思えないんですけれど」
そもそも非現実的な存在の博士である。
「二百億歳だなんて」
「わしは嘘は言わんぞ」
「嘘じゃなかったらほら吹き男爵みたいですけれど」
「ほら吹き男爵はよい」
その本も読んでいるらしい。
「ドン=キホーテは結末が非常に悲しいものじゃがな」
「まあそうですけれどね。とにかくどうしてなんですか?」
「どうしてとは?」
「何でマルクスに言われたんですか?そんなこと」
「うむ、それはじゃ」
そのことについて話をはじめてきた。
「話せば長くなるがよいか?」
「ええ、御願いします」
小田切君は何処からかお茶とお菓子を用意してきた。
「それじゃあゆっくりと」
「うむ」
こうして博士とマルクスの因縁が話されていく。それはまさに奇想天外そのものの話であった。
第二百七十一話 完
2010・3・15
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