第二百二十四話
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第二百二十四話 博士の好きな音楽
六人が結界を張っているその時。博士はまだ彼女達の行動に気付いていなかった。警戒システムから離れてのどかに音楽を聴いていた。
その音楽は。見ればクラシックであった。
「オペラのアリアですね」
「そうじゃ。ドミンゴじゃ」
見るとそれは高い男声であった。所謂テノールである。
「プラシド=ドミンゴじゃよ」
「スペインのテノールですよね、確か」
「確かじゃなくてその通りじゃよ」
かなりの費用をかけたことは間違いないかなり充実したステレオ設備の前に安楽椅子の上に座りながらそのうえで側に来た小田切君に話す博士だった。
「スペインが誇る偉大なテノールじゃよ」
「ここでもスペインなんですか」
小田切君はそのドミンゴについて聞いてからまた述べた。
「何か不都合でもあるのかのう」
「いえ、本当にスペインが好きなんだなって」
小田切君が思ったのはこのことだった。特にどうこういうつもりもなかったし悪意もなかった。人の趣味に介入する趣味はなかったのである。
「思いまして」
「スペインは歌手も優れた人材が多いのじゃよ」
安楽椅子に座ったままでの言葉だった。
「テノールだけではなくソプラノもメゾ=ソプラノもじゃ」
「へえ、そうだったんですか」
「本場イタリアにも匹敵する」
そのオペラの本場イタリアにもというのである。
「スペインの人材がなければクラシック界はかなり困ったことになるじゃろうな」
「かなりですか」
「少なくとも歌手には困る」
断言であった。
「このドミンゴを聴くことができなければそれだけで不幸なことじゃよ」
「確かに凄い歌ですね」
小田切君も実際にドミンゴの歌を聴いていた。ただ声がよく歌が上手いだけではない。そこにはそれ以上のものもあったのである。
「これは」
「どうじゃ?小田切君も聴いてみるかのう」
「ええ、それじゃあ」
小田切君は博士の申し出に対して頷いて答えるのだった。
「御願いします」
「では安楽椅子をもう一つ持って来るのじゃ」
こう小田切君に言うのだった。
「もう一つな」
「隣で聴いてもいいんですね」
「そうじゃな。あの二匹も連れて来てじゃ」
ライゾウとタロのことである。何だかんだで彼等のことも忘れていないのだった。
「聴かせてやろう、一緒にな」
「それじゃあ今は」
「うむ、皆で聴こう」
博士はあらためて小田切君に告げた。
「いいものは皆で味わうものじゃ」
「確かに」
「生きる価値のない奴は別じゃがな」
こう言ってしまうところが博士らしかった。しかし今は。
「あの連中も呼んで来ますんで」
「皆でのう」
こうした一面もある博士だった。もっともそれは一瞬のことだ
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