第百九十一話
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第百九十一話 助手が一人だけ
小田切君は博士の助手である。しかも雇われている身分だ。
従って給料は入る。しかも手取り四十万でボーナスまである。しかも食費やアパート代も別に出してくれる。かなり物凄い給料である。
「けれど今まで中々人が来なかったのじゃよ」
「それはそうでしょうね」
博士に対してその理由ははっきり言えるのだった。
「だって博士の助手ですから」
「天才の助手というのは苦労するからのう」
「まあ字が違いますけれどね」
かなりダイレクトに言うのだった。しかしそれで動じる博士でもない。
「僕だってあれですよ」
「あれとは何じゃ?」
「何か成り行きで今ここにいますし」
電柱の求人の貼り紙を見てであったのだ。
「もう何時の間にか」
「資格は問わぬ」
そんなことにこだわる博士ではない。
「やる気のある者が来ればそれでいいからのう」
「じゃあ僕じゃなくてもよかったんですか」
「うむ」
実はそうなのだった。
「別にのう。小田切君じゃなくてものう」
「まあその時就職も決まってなかったですし」
それで困ってもいたのである。
「それで来たんですけれどね」
「しかし他にも就職が決まっておらん若者は一杯おるじゃろうに」
ちなみに助手の募集は一人でなかったりする。
「それで何で君だけなのじゃろうな」
「だから博士ですから」
またこのことを言う小田切君だった。
「博士は世界的な有名人ですよ」
「よいことじゃ。世界がわしを知っておるのだからな」
「決していい意味ではないですよ」
実はそうなのだった。
「もうそれこそ。史上最凶のマッドサイエンティストとしてですね。赤ちゃんでも知ってますから」
「ふむ、ではわしはアメリカ大統領より有名なのじゃな」
「世界的宗教の教祖より有名だと思います」
あえてその名前は言わない小田切君だった。
「絶対に」
「だったら助手がもっと来てもいいものじゃがのう」
「だからこそ来ないんですよ」
話が完全に噛み合っていなかった。見事なまでに。
「博士ですから」
「しかし。助手が一人というのもじゃ」
この博士の耳は人の言葉は聞こえないのである。実に自分自身にとって都合のいい耳である。
「思えば寂しいのう」
「っていうか今まで助手いたことってあったんですか?」
「あった時もあるのじゃがない時の方が圧倒的に多いのう」
やはりそうであった。
「この二百億年のう」
「そもそも何歳なんですか、本当に」
実は孤独な博士であった。それも当然であるが。
第百九十一話 完
2009・5・12
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