第百七十七話
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第百七十七話 手懸かりは
二人は残る四人を探す為にそのジャングルプールの曲がりくねった中を泳いでいく。華奈子はそのままだが美奈子は相変わらず浮き輪を手放してはいなかった。
華奈子はそんな美奈子に対して言うのだった。
「やっぱり浮き輪ないと駄目なのね」
「悪いけれどね」
美奈子は彼女にしては珍しいバツの悪い顔になって華奈子に言葉を返したのだった。
「ちょっとね。これだけはね」
「そうなの、まあ仕方ないわね」
華奈子もそれで納得した。美奈子の運動神経のことは彼女が一番よくわかっているからだ。わかっているからこそであった。
「とにかくよ。まずは一人でも見つけないと」
「ええ。とりあえず手懸かりは」
「そんなのあるの?」
怪訝な顔で美奈子に対して問うた。
「手懸かりって。何もないじゃない」
「そうなのよね。何もないのよ」
美奈子も困った顔になって話す。浮き輪を使って泳ぎながら。
「こうして泳いでいるだけじゃ何もならないし」
「どうしようかしら」
普段は能天気なまでに明るい華奈子ですら今は困った顔になっていた。
「とりあえず手懸かりの一つでもないとどうしようもないわよ」
「ええ。ここは魔法を使おうかしら」
「魔法ってあんたの?」
「そうよ。音の魔法ね」
美奈子の魔法といえばやはりそれであった。彼女の魔法は音である。
「これを使ってね」
「音を使ってわかるの?」
「音といっても色々よ」
泳ぎながら微笑んで華奈子に述べるのだった。
「色々とね」
「確かに色々あるけれどそれでもどうするのよ」
華奈子は双子の相方が具体的にどうするのかまでは全く考えが及ばなかった。彼女は火の魔法が専門だからこれも無理もないことだった。
「音を使って誰か探すって」
「こうするのよ」
言いながら出してきたのは笛であった。彼女がいつも使っているその笛だった。
「これを使ってね」36
「使ってどうするの?」
その笛を見ても華奈子は首を傾げるばかりだった。
「何か召喚するの?どうするの?」
「召喚はしないわ」
それは否定する美奈子だった。
「それはね。それとは別の方法を使うのよ」
「それがそもそもわからないんだけれど」
「音は。立てないわ」
美奈子は楽しげに笑って述べた。
「そうして。見つけるわ」
「音を立てない?」
「そうせずにね」
「やっぱりわからないけれど」
華奈子にはもう何が何なのかさっぱりわからないことだった。しかしそれでもだった。
美奈子は笛を吹きはじめた。彼女だけはわかっているのだった。
第百七十七話 完
2009・3・22
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