第百六十六話
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第百六十六話 マントを広げると
立ち上がった博士はそのいつも羽織っている黒いマントをおもむろにその手に握った。そしてそのマントを高々と放り投げたのであった。
「マントを!?」
「い出よ!」
博士はここで叫んだ。
「蛇達よ。己の巣を作るのじゃ!」
こう叫ぶとそのマントの形が変わった。巨大化してそのうえ無数に散った。何とその散ったそれぞれの破片は漆黒の蛇であったのだ。
「マントが蛇に」
「物質変換装置を使ったのじゃよ」
博士は誇らしげに小田切君に告げた。
「それが今回わしが作った発明品じゃよ」
「それで蛇達をマントに変えたんですか」
「うむ」
博士は小田切君の問いに頷いた。
「その通りじゃ」
「まさか。こんなことが」
「わしは宇宙一の頭脳の持ち主じゃ」
豪語さえする。
「知能指数二十万のな」
「何か何処かの悪質な宇宙人みたいですね」
少なくとも人間の知能指数ではない。人間の脳を仮に百パーセント使えたとしてもそこまでの数値は到底出せるものではない。どう考えても。
「そこまでいくと」
「そうした連中とも渡り合ってきた」
「そうですか」
博士の行動は宇宙規模なのである。
「そして常に勝利を収めてきた。頭脳では誰にもひけは取らんよ」
それが有り難いかというと違う。優秀な頭脳は時として大きな災厄の原因ともなる。この博士の場合は言うまでもなく大きな災厄である。しかも途方もない。
「さて。それでじゃ」
「もう蛇は全部ビルの方に入りましたよ」
「蛇はいい」
博士は今度はこう呟いた。
「何処にでも忍び込め一噛みで屠ることができる」
「だから蛇なんですか」
「蛇にした理由はそれだけではない」
博士はそれだけで選ぶ程甘くはない。これまた残念なことに。
「無数の蛇に襲われ穴という穴に入られる」
「絶対に迎えたくはない最期ですね」
「それを迎えさせてやる」
博士は実に楽しげに笑った。
「よいことじゃ」
「それでですか」
「それ、聞こえてくるじゃろ」
声まで上機嫌になっていた。
「ビルから阿鼻叫喚の断末魔の声が」
「はい、とてもよく」
最早ビルは地獄絵図だった。実際に断末魔の悲鳴が木霊する。ただしその悲鳴はその殆どが日本のものではなく他の国のものであった。
「聞こえます」
「これでわしの伝説がまた一ページ」
博士はまた言うのだった。今度は毒蛇であった。
第百六十六話 完
2009・2・19
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