第百五十四話
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第百五十四話 あの方と同じ好みだった
小田切君はさらに先生に尋ねるのだった。今度尋ねたことは。
「お酒ですけれど」
「お酒ですか」
「お好きですか?」
お酒のことを尋ねたのである。
「そちらもいけますか?」
「ええ、お酒も好きです」
そして今度も微笑んで頷く先生であった。
「日本酒が」
「やっぱりそうですか」
「やっぱりといいますと!?」
「いえ、それですけれどね」
ここで真顔になって先生に話す小田切君だった。
「実は先生の味の好みですけれど」
「はい。それが何か」
「ある方と同じなのですよ」
こう述べる小田切君だった。
「実はですね。そうなんですよ」
「ある方とは?」
「明治帝です」
近代日本の象徴であられた方である。言わずと知れた日本中興の祖でもある。その生活は実に質素なことであったことでも有名だ。
「明治帝によく似ているのですが」
「そうだったのですか」
「はい、実は」
先生にあらためて述べる小田切君だった。
「そうなのです。帝は甘いものがお好きでして」
「意外ですね」
そのことを聞き目を少し丸くさせる先生だった。
「あの方が甘党だったなんて」
「味の好みと外見は別ですから」
これはまさにその通りだった。繊細な美人が酒豪だったり張飛を思わせる外見の豪傑が無類の甘党だったりする。その辺りは本当にわからないものだ。
「それでお酒も大好きでして」
「お酒もですか」
「日本酒を。後には白ワインも」
「白ワインも大好きです」
それもであった。
「赤も好きですけれど」
「それではそちらもですね」
「そうです」
小田切君の言葉にまた頷くのだった。
「ワインも」
「では完全に同じですね」
「そうなんですか」
「こういうこともありますか」
次にこう言った小田切君だった。
「好みは。やはり」
「わからないものですね」
「ですね」
あらためて先生の言葉に頷くのだった。こればかりは本当に誰にもわからないことであった。
第百五十四話 完
2008・11・29
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