第百五十一話
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第百五十一話 縁の話
「私もですね」
「どうかされたんですか?」
先生はふとした感じで声を出してきた。小田切君もそれに応えてその話を聞く。
「子供の時がありまして」
「ええ、それはわかります」
頷くがわかるというよりは当然の話であった。
「誰にだってそういう時がありますよね」
「あの時はあの時で楽しかったのですよ」
「確か先生は」
先生のことで一つ思い出したのである。
「この街でお生まれになったんですよね」
「そうです」
穏やかな笑みで小田切君に答えてきた。
「そして学校も全部こちらで」
「それで今もですか」
「ここで生計を営ませて頂いています」
「そうですよね。ずっとこの街ですよね」
「この街が好きです」
今度は気品のある笑みになる。どの笑みにしろいい笑顔なのがこの先生の特徴である。色も白くそれが笑顔をさらに引き立てている。
「ずっと。いたい位です」
「確かに。いい街ですよね」
「小田切さんは最初からこの街におられたのではないのですか?」
「いえ、実はですね」
そのことについて先生に話すのだった。
「実は子供の頃から高校まではずっと名古屋だったんですよ」
「名古屋の方だったんですか」
「ええ。意外ですか?」
「名古屋訛りがありませんので」
先生が言うのはそこであった。
「ですから。少なくとも名古屋とは」
「そうですか。やっぱりそうは見えませんか」
「はい」
静かな声で小田切君に答えてきた。
「それは。少し」
「隠してはいないのですよ」
このことはあえてという感じで言うのだった。
「別に。それはですね」
「そうだったんですか」
「大学がまあ。こっちでして」
「名古屋の方ではなく」
「名古屋の大学落ちたんですよ」
少し苦笑いを見せてきた。
「名古屋大学は」
「それでですか」
「まあそれでもここに来たんですけれど。縁ですね」
不意に縁という言葉を出すのだった。
「これも。今こうしているのも」
「縁ですか」
「そう思います」
言いながら先生の顔をじっと見ている。どうもまんざらな感じではなくなってきているようであった。
第百五十一話 完
2008・11・25
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