第百五十話
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第百五十話 就職の経緯
「実はですね」
「はい」
先生が話しはじめる。小田切君もその話をじっとして聞く。何時しか小田切君は先生のその整った奇麗な顔と向かい合っていた。
「私小田切さんより年上なんですよ」
「ああ、そうですよね」
それを聞いても特に驚かない小田切君だった。
「それはわかります」
「あれ、驚かれないんですか?」
「何となくそういう感じしましたから」
その特に驚くことはない様子の顔でまた述べる小田切君だった。
「僕はですね」
「はい」
「二十三歳なんですよ」
「では大学を卒業されてすぐに」
「そうだったんですよ。大学を卒業しても仕事がなくて」
「それは確か前に御聞きしましたね」
「あれっ、そうでしたっけ」
その辺りは記憶に乏しいのだった。
「そういえばお話したような」
「それでたまたま博士の研究所の求人広告を御覧になられたんですよね」
「月給手取り四十万円でボーナスは年二回あって」
破格の待遇ではある。
「しかも交通費や食費まで出してくれるって聞いて。しかも資格経歴等一切問わずでしたし」
「いい条件ですね」
いいどころではないがそもそもそうした条件を出しても人が来ないのが博士の研究所である。国連から要注意テロリストと名指しされていて日本政府すら破壊活動防止法の適用を当然と考えており過去何度もマリアナ海溝の底や宇宙空間や南極に隔離しても平気な顔で出て来る人間のところに行く物好きもいない。しかもその趣味が生体実験や兵器開発といった碌でもないものなら余計にそうである。来る方が凄い。
「それは」
「とりあえず言ったら博士が出て来て」
「はい」
「僕の顔見ただけで採用決定でした」
「それだけですか」
「はい、それだけです」
バイトの面接でもこうはいかない。
「何でも助手の応募して来たのは僕が最初だったそうですし」
「それは少し残念ですね」
先生も先生で条件だけ聞いて考えている。博士がどれだけとんでもない存在かということはあまりというか全く考慮していない。
「いい条件だと思いますし」
「それでまあ。就職ということになりまして」
本当にそれだけで決まったのである。
「今に至ります」
「わかりました」
「ですが。僕が二十三歳というのは驚かれますか?」
「いえ、別に」
先生はそれはどうとも思っていなかった。
「ただ。年下の方だとわかっただけで」
「そうなんですか」
とりあえず小田切君の話に戻って彼の就職の際のことがわかった。しかし先生のことはまだよくわかってはいなかった。
第百五十話 完
2008・11・19
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