第百四十六話
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第百四十六話 歩いていると
その小田切君が歩いていると。大抵はいいことが起こらない。
「あっ、泥棒!」
「よし、こいつは内臓を増やす実験の道具じゃ!」
「暴走族五月蝿いぞ!」
「ふははははははははは、またしてもストレス解消の的じゃ!」
博士が事あるごとに出て来てそのいいことを起こさない犯罪者達を無残な末路に追いやるからである。もっともこれは街でいつもあることだ。
「やれやれだな」
その散歩の中で溜息をつく小田切君だった。
「せめて一回は落ち着いた散歩がしたいよ」
今の彼の願いである。だが博士がいるこの街に平穏なぞないのでまさに夢物語である。だがそれでも夢は見ていたいのだった。
そんなある日のこと。ふと目の前に。
「あっ」
「おや、これは」
何と公演で今田先生に出会ったのである。先生は落ち着いた白いワンピースを着て公演の花園のところに一人立ってたたずんでいたのである。
実に絵になる光景だ。その先生を見て小田切君は思わず先生に近寄りそして。
「あの、あのですね」
「貴方は確か」
「はい、小田切と申します」
自然な流れで話に入るのだった。
「博士の助手の」
「今日はどうしてこちらに?」
「ちょっと暇ができまして」
つまり博士が悪夢の研究に没頭している時間なのだ。
「それで散歩にと思いまして」
「それにこちらにですか」
「ええ、まあ」
こう先生に返す。
「そういうことです」
「そうだったのですか」
「先生でしたよね」
小田切君も小田切君で先生のことを思い出すのだった。
「あの女の子達の魔法の」
「はい、そうです」
にこりと笑って小田切君の問いに答える先生だった。
「教えさせてもらっています」
「そうでしたね。いや」
あらためて先生を見る小田切君だった。そして言う言葉は。
「あのですね」
「はい。何でしょうか」
「宜しければ」
言葉が自然と出て来る。
「お時間。あるでしょうか」
「はい、暫くは」
「それでしたらですね」
先生の言葉を受けてさらに言うのだった。
「お茶でも」
言葉を続ける。自分でも驚く位言葉を自然に出していく小田切君だった。
第百四十六話 完
2008・11・13
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