第百四十話
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第百四十話 博士と会った時
先生達の話は続いていた。
「そういえばね。香ちゃん」
「何かしら」
「あの博士とはじめて会った時だけれど」
「ええ」
言うまでもなく天本博士とはじめて会った時のことである。
「あの時は幾つだったかしら」
「十歳だったかしら」
「小学生だったのは覚えてるけれどね」
「何年前かになるともう」
「そうなのよね。とても」
「覚えてないわ」
なおこの先生達の詳しい年齢は誰も知らない。戸籍にあるそれは実は違うものではないのかとも噂されている。役所もそこは知らないと言われている。
「けれど長いわよね」
「それは確かね」
「ええ。もう本当に」
今度はお菓子を食べながらの話になっていた。勿論和菓子である。
「御会いしてから」
「その間何かとあったけれど」
「どれもこれも」
「そうね」
話は続く。
「楽しい思い出よね」
「けれど寂しかったわ」
先生はここでふと小百合先生を咎めるような目で見てきた。
「小百合ちゃんが神戸に行ってね」
「御免なさいね」
小百合先生もそれに応えて申し訳なさそうに謝る。
「八条学園にどうしてもって言われて」
「私も誘われていたわよ」
「聞いてるわ」
二人の先生に同時に声をかけたのだ。日本でもトップクラスの魔女である二人に同時にだ。思えばある金満球団よりも強引である。
「けれど断ったのね」
「だって私もう塾があったから」
「この塾ね」
「そうよ。代々やってる」
つまり先祖代々魔女というわけなのだ。生粋の日本人であるが。
「ここでね」
「やっぱりここがいいの?」
「それもあるわ」
先生もそれは認める。
「けれどね」
「ええ。けれど?」
「生徒の娘達が好きだから。皆が」
「香ちゃんらしい言葉ね」
「皆大好き」
少女の心そのものの言葉であった。
「これからもずっとね」
最後に微笑みお菓子を食べる。何時までも少女の心を忘れない二人の先生であった。
第百四十話 完
2008・10・14
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