第八十二話 慎重な進みその十二
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「そういうことではないか」
「あっ、ですな。それは」
「言われてみれば」
森も池田もまた気付いたのだった。信長の言葉を受けてだ。
そしてだ。二人で言うのだった。
「知らぬから知ろうとするのですな」
「完璧でないから完璧になろうとするのですな」
「生まれてその時点で完璧の者もおらぬわ」
誰もが赤子だ。それではとてもだった。
「わかったのう、これで」
「はい、よく」
「そういうことでございますか」
「そういうことじゃ。わしは一の人になるが人は人じゃ」
このことは変わらないというのだ。絶対にだ。
「それにどうも与三達は傾くを理解せぬのう」
「悪ふざけは嫌いでございます」
答えたのは森ではなく彼よりも生真面目な池田だった。
「殿の悪ふざけはご幼少の頃より過ぎます」
「童心じゃ、童心」
「童心と悪ふざけは違いますが」
「全く。爺みたいなことを言うのう」
「流石に平手殿程厳しくはありませんが」
「あんな口煩いのが家に二人おれば困るわ」
平手の小言にはだ。信長とて勝てぬものがあった。それで今は岐阜で留守を務めている彼のことはだ。信長は困った顔でこう言うのだった。
「雷がどれだけ落ちるやら」
「それを御承知で悪ふざけをされるからです」
「問題なのですが」
「傾いておるのじゃ」
それだとだ。信長は言ってみせた。
「しかしそれもじゃな」
「冗談が過ぎます故」
「何か与三はまだわしに手心を加えてくれるが」
信長は森をちらりと見た。彼にとっては平手の他にいる宿老達と共に幼い頃から傍にいる者だ。その頃から優しく頼りになる男である。
だがその森とは違いだ。池田はどうかというと。
「勝三郎はどんどん厳しくなるのう」
「これも殿の御為ですから」
それでだと言う池田だった。
「あえて申し上げておるのです」
「爺がいない時にはか」
「はい、お諌めさせて頂きます」
「やれやれ。爺がおらんでも羽根は伸ばせぬか」
信長は困った笑みを作ってみせて述べた。
「心が休まる暇がないわ」
「その位が丁度いいのでは?」
今こう言ってきたのは佐久間信直だった。
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