第八十二話 慎重な進みその七
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そのうえでだ。織田家にはもう一つあった。
「その者に適した仕事が与えられます」
「その力を存分発揮できる」
「そうした場所にですか」
「置いて頂けるのですか」
「そうです」
それがだ。織田家だというのだ。
「そして殿はあらゆる仕事に功を見られますので」
「まことに己の力次第でどれだけでも禄を貰える」
「それが織田家でございますか」
「左様です」
まさにそうだと答える丹羽だった。
「ですからそれがしもこうして重く用いて頂いているのです」
「そういえば丹羽殿は」
「幼い頃に殿に見出して頂きました」
彼にしてもだ。そこからだったのだ。
「小姓からはじまったのです」
「そして今に至ると」
「そうなのですか」
「政に戦に。織田家でやることは実に多いです」
柴田や佐久間の様な武の柱になる者達も戦がなければ田や町を開墾し築いていく。そして林や平手の様な政に長けた者達も戦の場に出る。だが織田家は基本適材適所だ。
それでだ。明智達もだというのだ。
「それぞれ相応しい仕事ができまする」
「幕府にいながら」
「そのうえで」
「その通りです。如何でしょうか」
こう言ってだ。丹羽は彼等をさらに誘う。
「織田家の仕事もされますか」
「そうですな。信長様が公方様にお話して頂いて」
「そのうえで認めて頂けるのなら」
「我等も」
乗るとだ。明智達も言う。とりわけだ。
明智は丹羽の話に乗ってだ。それで言うのだった。
「では。そうなれば」
「そうなればですな」
「妻や子達。それに」
ふとだ。明智は脳裏にある相手の顔が浮かんだ。それからだ。
目を閉じ深い顔になってだ。こう述べたのだった。
「皆楽になりますな」
「今以上に禄が増えればですな」
「今まで。家族には迷惑をかけてきました」
美濃を出てから天下を転々としていた頃のことをだ。思い出しての言葉だった。
「ですが。今以上に禄があれば」
「ではこのことは」
「織田殿と公方様さえよいと仰れば」
まさにだ。そうなった時はだと。明智は述べたのだった。
「その時はです」
「織田家の為にも働いて頂けますか」
「はい、そうなれば」
返答はこれしかなかった。
「そうさせて頂きます」
「そう言って頂き何よりです。ただ」
「ただ、とは」
「殿は中々癖のある方ですので」
信長についてだ。丹羽はこんなことを言ったのである。
「このことは既に御存知だと思いますが」
「癖ですか」
「はい、傾いているとも言われていますが」
具体的にはそういうことだった。信長はそれなのだ。
その傾き故にだ。彼は奇矯に思われることもあるというのだ。
だがこのことについてだ。明智はこう述べたのだった。
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