第八十一話 信貴山城その十四
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「だからです」
「ここはですな」
「はい、善政です」
「その点殿はしっかりしておられますな」
信長は確かに刑罰は厳しい。だがそれは悪しき者に対してだけでありその悪を許さず善を護る政は民に非常によいものだった。しかも税は軽く新田開発や町の整備にだ堤や道も整え木も植える。そして特産品も数多く作っている。
そうした政が全て民に返ってきている。そしてそれが返って来ているのは民にだけではないのだ。
「殿の評判も高めておりますな」
「善政こそが天下人を創り上げるものなのです」
「天下人も最初から天下人ではないのですな」
「そうです。明の古代の帝王達もです」
最初から天下人ではないというのだ。どんな帝王もだ。
「なっていくものなのです」
「では、ですか」
「はい、我等が殿もです」
信長も然りだった。彼も最初から天下人ではないというのだ。
それでだ。雪斎は言うのだった。
「なっていくものです」
「ですか。それでは」
「まだまだ天下人への道は遠いです」
「これからですか」
「確かにこれまでの殿は目を瞠るものがありました」
尾張統一からだ。それからの信長はまさにそうだったというのだ。
「桶狭間では拙僧もしてやられました」
「ははは、あの時はですか」
「はい。ああこられるとは」
その頃のことを思い出すとだ。雪斎は無念やらそれでいて納得しているやらのだ。複雑な、様々なものが入り混じった笑顔になった。そのうえでだ。
彼は滝川にだ。こう述べたのだった。
「思いも寄りませんでした」
「でしたな。あの時は我等は敵同士でした」
「しかし今ではこうして共にいますな」
「ですな」
このことも話した。そしてだ。
雪斎はさらにだ。桶狭間からのことも話したのだった。
「伊勢に志摩を手中に収められ美濃もです」
「しかもどの国も満足に治められていますな」
「御見事です。しかしです」
「天下はまだまだ先ですか」
「天下は天の遥か上にあるものです」
雪斎は己の頭上を見た。そこには何処まで高いかわからない青空がある。
その先の。何処まであるのか見えないものを見ながらだ。雪斎は滝川に話すのだった。
「そうおいそれとは辿り着けません」
「まだまだ先ですな」
「はい、先です」
そうだというのだ。
「例え三好に勝ってもです」
「ですか。まだですか」
「先ですか」
「そうだ。先なのですから」
「河内を治めることもですか」
「天下を登る中の一つのことなのです」
天下統一へのだ。その道中のだというのだ。
「ですから。河内をどうにかできなければ」
「そもそも尾張を治めることもですね」
「できはしませぬ」
「ですか。では」
「はい。殿は河内も間違いなく治められます」
それができるという
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