第八十一話 信貴山城その一
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第八十一話 信貴山城
松永は織田家の先陣及び先導を務め続けている。その態度はというと。
「全くですな」
「隙を見せませぬな」
織田家について大和の国人達が残念そうに述べる。
「いや、少しでもおかしなところがあれば後ろから斬り捨ててやるというのに」
「しかしおかしな素振りがありませぬ」
「何一つとして」
「そうしたものは見せませぬ」
こう言ってだ彼等は松永が率いる先陣を見ながらだ。忌々しげに言う。彼等はまだその服も具足も馬具もだ。織田家の青ではなく地味な色だった。
そしてその色のままで織田家の中にいてだ。こう言うのだった。
「松永弾正、あれだけ危険だというのに」
「早く始末せねばならないというのに」
「その隙を見せないとは」
「無念なことだ」
こう言いながらだ。松永の隙を窺っていた。しかしだ。
松永は相変わらず隙を見せない。見事な先陣ぶりだった。
そしてその先陣を見ながらだ。滝川が雪斎に述べた。
「間も無くですな」
「はい、その松永弾正の居城に入ります」
雪斎は滝川の横にいる。その馬上から応えたのである。
「信貴山城に」
「あの城はかなりのものだとか」
松永はその信貴山城のことについて述べた。
「それこそ堅固さだけでなく見栄えもまた」
「その様ですな。拙僧もこの目で見たことはありませぬが」
「噂として」
「はい、聞いております」
そうだというのだ。雪斎はその豊富な見聞の中で聞いていたのだ。
「ですから楽しみではあります」
「どういった城なのか見るのが」
「そうです。しかしです」
「それでもですな」
「若しあの城に入れば」
「何しろ蠍ですから」
「何をしてくるかわかりませぬな」
滝川はここでも警戒の言葉を口にした。そうしてだ。
その信貴山城についてだ。こう言うのだった。
「実は既にそれがしの手の者をあの城に送っています」
「そうして調べてさせておりますか」
「はい、罠や毒なぞ普通に考えられますから」
松永ならばだった。とにかく彼のことを信頼してはいなかった。完全に獅子身中の虫と見なしてだ。そのうえで警戒の念を解いてはいないのだった。
だからこそだ。滝川はそうしたというのだ。
「既にそうしております」
「それはいいのですが」
そう聞いてもだった。雪斎はだ。
心配する顔でだ。滝川に対して言った。
「しかし忍の者といえどもです」
「松永の城ならば」
「誰も生きて帰れぬのではないでしょうか」
雪斎にしてもだった。松永への警戒の念は隠そうともしていなかった。そしてだ。
二人にだ。筒井も言ってきた。
「これまであの城に入った者はです」
「誰もがなのですか」
「生きて帰った者はおりませぬ」
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