第八十話 大和糾合その十二
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「実にのう」
「双方から警戒されておられるというのに」
「そうだというのですか」
「だからこそよいのじゃ」
また言う松永だった。
「織田家だけでなく同族からも警戒されてじゃ」
「御命さえ危ういこの状況がですか」
「楽しいと仰るのですか」
「如何にも。ただ生きているだけでは面白くない」
飯はそのまま食っている。そのうえでの言葉だった。
「背中合わせに生と死がある状況に常にあってこそじゃ」
「刺激があってよい」
「左様ですか」
「言うならあれじゃ。刃の上に座り茶を飲むのじゃ」
松永は今は茶ではなくだ。湯を飲みながら述べた。
「それがまた面白いのではないか」
「いや、それはです」
「刃の上に座って茶なぞ飲めません」
「とてもです」
彼等は松永の同族だ。しかしそれでもだった。
そうした危うい楽しみはどうしても理解できずにだ。それぞれ慌てふためいた感じの顔になってそのうえでだ。松永に対して必死にこう言ったのだった。
「その様なことが楽しいとはとてもです」
「思えません」
「しかし殿はですか」
「それが楽しいのですか」
「そうじゃ。刃はただ座っているだけでは切れぬ」
日本刀は斬るには難しい。だから戦の場では斬るより突くのだ。
だから刃の上に座っても何にもならない。しかしだ。
少しでも下手をすれば切れてしまう。だからこそ危ういのだ。
しかしそれでもだ。松永はそれが楽しいというのだ。そしてだ。
松永は己の家臣達にだ。こんなことも言った。
「さて。それではじゃ」
「はい、朝飯の後で」
「再びですね」
「信貴山城に入りじゃ」
そうしてだというのだ。
「そこから河内に進もう」
「では織田家の先導役をですか」
「そのまま務められるのですか」
「そうじゃ。実はじゃ」
湯を飲みながらだ。松永はにこやかに述べた。
「わしは織田家が好きなのじゃよ」
「えっ、そうなのですか!?」
「織田家がですか」
「お好きなのですか」
「うむ。好きじゃ」
そのにこやかな笑みでの言葉である。
「信長様もじゃ」
「しかし我等一族にとって織田信長は最大の脅威ですが」
ですがそれでもですか」
「織田家がお好きで」
「しかも信長殿も」
「うむ。好きじゃぞ」
こう言ってなのだった。松永は己の言葉にきょとんとした顔になる彼等のその顔を見ながら楽しげに笑いそのうえでだった。朝飯の後で支度を整えてだ。再び先陣として軍を進めるのだった。
第八十話 完
2012・2・20
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