第八十話 大和糾合その一
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第八十話 大和糾合
滝川は松永の案内を受けて大和に入る。その傍らには雪斎がいる。滝川はその彼に尋ねた。
「和上はどう思われるか」
「あの者のことでございますな」
「左様。松永弾正だが」
「危険でございますな」
かなり剣呑なものに対する目になってだ。雪斎は答えた。今彼等の前に松永はいない。だがそれでも松永に対してだ。彼はこう滝川に答えたのである。
「やはり主家の三好家を枯死させましたし」
「公方様を殺めた」
「そして東大寺を焼きました」
「平清盛でもそこまではしなかった」
滝川は先に大仏殿を焼いたこの男を例えに出した。
「到底のう」
「はい、ですから」
「我が織田家も」
「三好のことを思うとです」
「そうじゃな。殿は迎え入れて下さっているが」
だが、だった。滝川も雪斎もだった。松永に対してだ。
それぞれ剣呑なものを見ながらだ。こう言ったのだった。
「わしは。あの男が何か妙な動きを見せれば」
「拙僧もでございます」
「権六殿も言っておられた」
織田家の重臣の中の重臣であり武の看板の彼もだというのだ。
「松永だけは。何があろうとも」
「ですな。信用できませぬ」
「あの者はまさに蠍じゃ」
滝川もだ。松永をこう評した。
「置いておけば恐ろしいことになるが」
「しかし殿はです」
「何故置いておくのじゃ?」
滝川はそのことをどうしてもわからなかった。そのうえでだ。
首を傾げさせそうしてだ。こう雪斎に述べた。
「殿はああして」
「蠍には毒があります」
雪斎は松永の通称から滝川に答えた。その答えはというと。
「そして毒を以て毒を制すといいますが」
「では今度そうした毒の持ち主が現れれば」
「殿はその為に松永を用いているのではないでしょうか」
「殿のお考えは時としてわからぬからのう」
陽気で闊達だが時折妙に心の奥底を見せないのだ。それが信長なのだ。
それでだ。滝川もわからずに言うのだった。
「そうお考えならよいが」
「少なくとも何も考えておられぬということはありませぬ」
「殿じゃからな」
「はい、必ずお考えがあります」
「では今は我等はか」
「確かに。少しでも怪しい動きを見せればその時はです」
雪斎は法衣の上から織田の青い具足を着けている。その格好でだ。
馬上から前を見据えてだ。こう滝川に述べた。
「拙僧も考えがありまする」
「ではその時は和上もまた」
「御仏にお仕えしていますので剣は用いませぬ」
雪斎は教養も信仰もかなりのものだ。一級の僧でもあるのだ。
その彼がだ。どうかというのだ。
「しかし杖や棒は使いまする」
「それをか」
「はい、それで松永めを成敗します」
「わしは剣にじゃ」
そ
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