第七十九話 人たらしの才その十
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「特に加賀じゃ」
「あの国ですか」
「百姓の持ちたる国と言われる」
「あの国は百姓の国なぞではないわ」
森が言ったその言葉をだ。すぐに否定した信長だった。
「坊主の国じゃ、あそこは」
「一向宗のですな」
「坊主だから問題ではなくあの連中が問題なのじゃ」
一向宗の者達、彼等こそがだというのだ。
「あの連中は下手をすると武田や上杉以上に厄介じゃ」
「あの両家よりもですか」
「さらにですか」
「相手が大名なら敵も足軽になる」
信長がここからだ。あることを述べた。
「わし等と同じじゃ」
「つまり我等と同じ者達を相手にする」
「それならばですか」
「そうじゃ。そうであればわかることも多い」
相手がどれだけ強敵であろうともだ。同じ存在ならばだというのだ。信長がここで話したいのはこのことだった。相手が大名なら自分達と同じだというのだ。
しかしだ。相手が一向一揆ならばだ。どうかというのだ。
「しかし一向一揆は違う」
「相手は百姓、そして坊主ですな」
森がだ。ここで彼等を話に出した。
「あの者達ですな」
「そうじゃ。そういった者達じゃ」
それならばだというのだ。信長の話はその核心に入った。
「かといって僧兵ともちと違う」
「延暦寺によくいるですか」
「ああした者達とも」
「僧兵については歴史に古くからある」
僧兵についてもだ。信長は簡潔に述べることができた。
「いざとなれば念仏を唱えたり御仏がどうかとか言い出し隠れようとするがじゃ」
「しかしそれでもですな」
「一向宗よりはですか」
「何かとわかることが多いわ」
彼等についてもだ。そうだというのだ。しかしなのだった。
「だが一向宗は百姓でしかも普通の一揆ではない」
「後ろに坊主がおる一揆ですか」
池田が眉を顰めさせて言った。
「坊主が煽りそれで大々的に起こさせる一揆ですな」
「だからこそ厄介なのじゃ」
眉を顰めさせてだ。信長は二人に述べた。
「恐ろしい数の百姓共が襲い掛かって来るのじゃ。鍬や竹槍を持ってな」
「鍬に竹槍、それに鎌に斧ですな」
森は百姓達が持つ武器をだ。言うのだった。
「ああしたものはどれも何処にでもありながら恐ろしい武器になります」
「そうじゃ。まことに何処にでもあるからこそすぐに襲い掛かることができる」
信長はまた指摘した。このことをだ。
「それこそ一瞬で武器を持った者共が来るのじゃ。尚且つあの者達は死を恐れぬ」
「念仏を唱えておれば死んでも極楽に行ける」
池田は一向宗の教えを口にした。
「そう信じているからですな」
「そういうことじゃ。いきなり大勢の命知らずが出て来て襲い掛かって来るのじゃ」
信長は眉を顰めさせたままさらに述べた。
「これだけ厄介なものはないぞ」
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