第七十八話 播磨糾合その九
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「それに中々見るものを見ます」
「そうじゃ。あれでかなりの知恵者じゃ」
「しかも妙に人懐っこいですな」
「わしも猿は嫌いではない」
信行自身もだ。そうだというのだ。彼にしても羽柴は嫌いではなかった。
だからこそだ。彼は羽柴をこう評すのだった。
「あれだけ嫌われぬ者はおらんな」
「そうですな。実に」
「その猿が荒木をどう取り込むか」
「そこが見所ですな」
「御主はどう思うか」
蜂須賀と話してだ。そのうえでだった。
信行は秀長にも顔を向けてだ。彼にも問うたのである。
「実の弟だから兄のことはわかるか」
「はい、とりあえずは」
謙遜して答える秀長だった。信行に対して。
「兄上は茶に気付かれたかと」
「茶か。というと」
茶と聞いてだ。信行は馬上で眉を動かしてから述べた。
「茶器であろうか。しかしじゃ」
「我等は身一つで都から播磨に来ました故」
「そうじゃな。それでじゃ」
「はい、金は多少はありますが茶器といったものはです」
「持っておらぬ」
その手にはだった。茶器の様に割れるものもあると山を越える時に持って来れるものではない。しかも何時襲われるかわからなかったのだ。それではとてもだった。
だからだ。信行は今はこう言うのだった。眉を顰めさせたまま。
「それでどうしてその数寄者を織田家につけさせられるのか」
「それが問題ですな」
「そうじゃ。それでどうするのじゃ」
「何も今渡す必要はないのではないでしょうか」
秀長は信行に話した。
「今この場では」
「では後でか」
「そうすることもできます故」
「空手形という訳ではあるまい」
空手形という言葉にはだ。信行は。
今度は顔を曇らせてだ。こう言ったのだった。
「それはよくないのう」
「空手形はお嫌いですか」
「口約束はよくない」
生真面目な信行には許せるものではなかった。それでだ。
彼は今度は眉を曇らせそのうえで述べたのである。
「やはりしかと決めてせねばじゃ」
「いけないと」
「そう仰るのですか」
「そうじゃ。猿はそれをするか」
彼が空手形を切ると思いだ。それで言ったのである。
「よくはないのう。それは」
「どうでしょうか。兄上はとかく口が優れますが」
「だからといってそうしたことはして欲しくないがのう」
「それがしもそれはわかりませぬ」
実の弟でもだ。そうだというのだ。
「申し訳ありませぬが」
「よい。わしもここは猿に任せたのじゃ」
「だからこそですか」
「そのことを咎めはせぬ」
実にはっきりとだ。言い切った信行だった。確かにこれまでの彼とは全く違う。
「むしろ多少ならば前に出ても構わぬ」
「前にですか」
「それがかえってよいのかも知れぬ」
慎重な彼もだ。こうし
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