第七十六話 九十九茄子その一
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第七十六話 九十九茄子
本能寺においてだ。信長は松永久秀が来ることを待っていた。しかしだ。
青い服の家臣達はだ。誰もがだった。
難しい顔をしていた。森もだ。
池田にだ。こう漏らしていた。
「若しもじゃ。松永めが少しでもおかしな素振りを見せればじゃ」
「その時はですな」
「斬る」
一言だった。
「このわしの手でじゃ」
「はい、それがしもです」
信長の身を常に固める二人はだ。それぞれ強い顔で言い合う。
「若しあの者がおかしな素振りを見せればです」
「その時は共に討とうぞ」
「殿には指一本触れさせずにですな」
「蠍じゃ」
松永の呼び名まで出た。
「蠍は油断したら刺してくるわ」
「噂では蜂よりも遥かに厄介とか」
「蠍は殺すに限る」
完全にだ。松永を蠍としての言葉だった。
「我等がおる限り殿には断じてじゃ」
「おかしなことはさせませぬ」
こう話してだった。そのうえでだ。
彼等もまた松永を待ち受けていた。しかしそれは信長とは全く違う理由でだった。
その剣呑な緊張の中でだ。慶次がふと言った。
「ふうむ。どの御仁も緊張しておられますな」
「当たり前じゃ。蠍が来るのじゃぞ」
「それでぴりぴりせんでどうするのじゃ」
前田に佐々がだ。すかさず慶次に言う。
「御主はこういう時でも余裕綽々じゃのう」
「何も思わぬのか」
「思ってはおりまする」
笑ってだ。慶次は叔父と佐々に応える。
「いや、どういった御仁か実に楽しみですなあ」
「殿に何かするかわからんぞ」
「それでもか」
「全く。殿も傾くが」
「御主も大概じゃな」
これにはだ。前田も佐々も呆れた。彼等、特に前田もまた傾奇である。しかしだ。
その彼等にしてもだ。慶次の傾奇には呆れていた。
それでだ。また慶次に言うのだった。
「蠍が来ても動じぬとは」
「殿に何かしてくればどうするのじゃ」
「その時はよいのか」
「その時はその時でござる」
やはりだ。全く動じない彼だった。そうしてだ。
飄々とした態度でだ。また言うのだった。
「それがしがあの御仁を叩きのめしてみせましょうぞ」
「殿への忠義はあるか」
「ならばよいが」
「殿程傾いておられる方はおりませぬ」
傾奇者として知られている彼から見てもだ。信長はだった。
「ならばその傾奇をとことんまで見たいものですから」
「傾くのはわしもじゃがな」
「わしもじゃ」
その傾奇者のだ。前田と佐々の言葉だ。
「だから傾くことについては何も言わぬが」
「しかし御主はまたとことんまで傾くのう」
「殿もそうじゃが全く」
「困ったものじゃ」
彼等がこう話しているとだ。こここでだ。
信長がだ。その彼等に言ってきた
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