第四話 中田の告白その三
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「正直やったって感じだよ」
「どうしたら全国大会優勝なんてできるんでしょうか」
「あれだな。戦ってるからだな」
「戦う?」
「だからだろうな」
こう話すのだった。
「だからだな」
「戦うっていいますと」
「色々あってな」
何かを隠す口調での言葉だった。
「まあ。いつもそうしてるからな」
「戦ってるんですか」
「実戦が一番なんだよ。強くなるには」
「実戦ですか」
「ああ、そうなんだよ」
それだというのだ。
「戦うのが一番いいんだよ」
「それじゃあ」
中田の話を聞いてだ。上城は。
彼の常識からだ。こう言ったのだった。
「稽古ですか」
「稽古!?」
「それですよね」
また言う。
「やっぱり」
「いや、まあな」
「まあな?」
「実戦っていっても色々だからな」
「色々っていいますと」
「あれだ。とにかく実際に刀持ってやることだよ」
中田はこの辺りはあえてぼかして話した。そしてそれを聞いた上城はというと。
まさか彼が実際に戦っているとは考えずにだ。ただこう言うだけだった。
「そうですか。一本勝負とかかかり稽古とかは」
「まあいいな」
中田はまたぼかして話す。
「とにかく人間な」
「努力ですよね」
「頑張るんだな、あんたも」
「全国大会は無理でも」
それでもだとだ。彼なりに考えて言う。
「頑張りますね」
「ああ、頑張れ」
今度は屈託のない笑顔で言う中田だった。そして上城もだ。
彼の言葉の背景までは考えずだ。そのうえでだ。
稽古に身を打ち込むことにしたのだった。それが彼の考えだった。
上城は中田と笑顔で別れた。彼はそれで終わった。
だが中田はというと。彼と別れてから。
声を聞いた。あの声をだ。
「来ます」
「そうか、またなんだな」
「それでどうされますか?」
「どうするって選択肢は一つしかないだろ」
「戦われますね」
「ああ。相手は何匹だ?」
「一匹です」
声はこう彼に答えた。
「一匹ですが」
「一匹ね。それでも尋常じゃない強さなんだろうな」
「強いと思います」
それは間違いないとだ。声も言う。
「何しろミノタウロスですから」
「ああ、あれか」
ミノタウロスと聞いてだ。中田は納得した顔で頷いた。
そのうえでだ。彼は言った。
「牛の頭のでかい奴だよな」
「そうです。かつてミノス王の迷宮にいた」
「あいつか。あいつが出て来るのか」
「気をつけて下さい。ただ大きいだけではありません」
「力も強くてあれだな」
中田もミノタウロスについては知っている。ギリシア神話において最もよく知られている魔物の一つだ。だからこそ言えるのである。
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