第七十五話 都に入りその十一
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「あまりにも危険です」
「あの男は普通の男ではありませぬ」
信行に続いて信広も言ってきた。
「ですから。今ここで斬らねばそれだけで天下にとって大きな災厄です」
「しかもです」
さらに言う信行だった。
「会われるなぞ。若し家臣に加えられると何時寝首をかかれるかわかりませぬ」
「ははは、そうやも知れんな」
信長は弟達の言葉を受けてだ。何とだ。
いつもの大きな笑い声を当ててだ。そしてこう前にいる者達に告げたのである。
「しかしわしは決して寝首はかかれぬ」
「常日頃鍛錬をされているからですか」
「それ故に」
「いや、御主等がおるからじゃ」
家臣達を見ての言葉だった。
「それ故にじゃ」
「我等がいるからこそ」
「寝首はかかれぬと」
「一人の武勇なぞたかが知れておるわ」
かつての項羽の様なことをだ。ここで言ったのである。剣は所詮一人を相手にするだけに過ぎない、信長もこうした考えだったのだ。
だからこそだ。今己の家臣達に言うのである。
「わしの剣、具足は御主等じゃ」
「そう言って頂けるのは有り難いのですが」
「ですが松永はやはり」
「危険に過ぎます」
「御会いになられるというのは」
こう言って反対する彼等だった。だが信長の考え、もっと言えば好奇心は変わらない。だからこそ彼は楽しげに笑って言うのである。
「また言うがのう。そこが面白いのじゃ」
「また傾かれますか」
池田が呆れた声で言った。
「全く。殿のその傾きにも困ったものですな」
「ははは、何はともあれ会おうぞ」
それを決めてだった。信長はだ。
その松永と会うことにしたのだった。その本能寺にだ。
松永が己の家臣達と共に馬で向かっていた。その中でだ。
松永はだ。こんなことを言うのだった。
「さて。あれを持って来たがのう」
「まさかあれを持ち出されるとは」
「そこまでされますか」
「あの茶器を」
「何、わしにはまだとっておきのものがある」
松永はいささか名残惜しそうだったがそれでもだった。
そこにまだあると言ってだ。そして述べたのである。
「あれじゃ。あの釜だけはじゃ」
「どうしても手放されませぬか」
「あれだけは:」
「今持って来たあれはよい」
今のものはそうだというのだ。
「あれはのう。まだな」
「しかしかなりのものですが、あれも」
「それこそです」
「ははは、それだけのものを出さなくては織田殿も応えぬじゃろう」
「そういえば織田殿もかなり茶器に凝っておられるとか」
「茶道好きだとか」
信長は酒が駄目でだ。茶を好むことは知られてきていた。
そして茶道には茶器も必要だ。そして信長はその茶器にも凝っているのだった。
その茶器についてだ。松永は言うのだった。
「織田殿は中々
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