第七十四話 都の東でその十二
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それを聞いてだ。信行がいぶかしみながら兄に問うた。
「これで追わないのですか」
「そうじゃ。追わぬ」
「又それはどうしてなのでしょうか」
「充分に勝った」
戦果をだ。かなり挙げたというのだ。
そしてだ。さらにだった。
「それにじゃ。あの兵達は逃がしてもすぐに織田に加わるわ」
「そうなるのですか」
「うむ、まあ見ておるのじゃ」
確かな笑みで述べる信長だった。そしてだ。
そのうえでだ。彼は弟にこうも言った。
「では都に進むぞ」
「すぐに都に入られますか」
「その前に一旦話をするがのう」
それはあるというのだ。
「全てはそれからじゃ」
「話をですか」
「まずは全軍陣を整える」
都に入る前にだ。そうするというのだ。
「そこで話をしてからじゃ」
「都に進まれますか」
「うむ、そうする」
こう話してだった。信長はだ。
戦に勝った軍に陣を整えることを命じた。鴨川の戦は織田軍の圧勝に終わった。兵の数の優勢と巧みな戦術を駆使した織田軍の一方的な勝利に終わったのだ。
そしてだ。それを最後まで見た松永はだ。こう己の家臣達に述べたのだった。
「これで決まりじゃな」
「では大和に戻り」
「そのうえで信貴山城に篭もりですか」
「織田と戦の用意ですな」
「いや、織田殿と戦はせぬ」
それはしないとだ。松永が述べるとだ。
話を聞いた家臣達は怪訝な顔で彼に問い返したのだった。
「それはまたどうしてですか」
「長老はそう言われていますが」
「そうされぬのですか」
「このことも」
「先程も言ったな。織田殿と会う」
そうするとだ。楽しそうな笑みを浮かべてだった。
そのうえでだ。彼はだ。こうも言うのだった。
「織田殿が都に入れば使者を送ろう」
「そうしてですか」
「そのうえで織田殿と」
「うむ、会おうぞ」
こう言ってだ。今は兵を退く彼だった。鴨川での戦に勝った信長は都を確かなものにした。だがそれは彼にとってはほんの通過点に過ぎなかったのである。
第七十四話 完
2012・1・6
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